令和6年度受賞者紹介

芸術選奨文部科学大臣賞

演劇部門

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俳優 浅野 和之(あさの かずゆき)
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東急文化村公演
「What If If Only―もしも もしせめて」
撮影:細野晋司
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パルコ劇場公演「リア王」
撮影:細野晋司
「What If If Only―もしも もしせめて」「リア王」の成果
短編ながら「What If If Only―もしも もしせめて」での演技は激賞ものであった。若い頃から卓越していた身体能力の高さは今なお健在。そのキレのある身体を駆使しながら、主人公の「未来」と「現在」という難しい二つの役柄を軽やかに、かつ深遠に演じてみせた。また、「リア王」では両目を抉られるという悲惨な「グロスター伯爵」を、一転して抑制を利かせた身体で淡々と演じ、その中にどこまでも揺るがない忠義心と深い悲しみとを色濃く滲ませた。正に、名演技は身体を伴ってこそ人の心を打つ。その証左となる稀有な俳優であろう。
略歴
昭和29年東京都生まれ。安部公房スタジオを経て、野田秀樹主宰の「劇団夢の遊眠社」で主要メンバーとして活躍。その後、舞台では多くの演出家と仕事をし、様々な作品で幅広い役柄を演じる。また、舞踊を取り込んだ身体表現豊かな作品や、古典作品、歌舞伎にも出演。テレビドラマや映像作品でも心地よい存在感の伝わるような様々な役で活躍を続けている。読売演劇大賞最優秀男優賞に二度輝くなど、その演技力や表現力が高く評価されている。
主な作品等
(舞台)「桜の園」「海をゆく者」「ショウ・マスト・ゴー・オン」「スーパー歌舞伎Ⅱワンピース」、(ドラマ)「義母と娘のブルース」「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」「鎌倉殿の13人」「ラジエーションハウス」ほか

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歌舞伎俳優 坂東 彌十郎(ばんどう やじゅうろう)
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「梅雨小袖昔八丈 髪結新三」
令和6年8月歌舞伎座(家主長兵衛)
©松竹株式会社
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「伊勢音頭恋寝刃」
令和6年3月歌舞伎座(油屋お鹿)
©松竹株式会社
髪結新三かみゆいしんざ家主長兵衛いえぬしちょうべえほかの成果
長身で押し出しが良く、敵役から老け役までを幅広く演じる。「髪結新三」の家主長兵衛では小悪党の新三を掌で転がすような強かな家主を巧みに描き出し、「義経千本桜」の「すし屋」では全てを飲み込んだ梶原景時の底知れなさを感じさせた。また「伊勢音頭恋寝刃」のお鹿では、可笑しみと愛らしさに加えて哀愁を漂わせた。線の太い立役として、古典と新作で主役から脇役までますますの活躍が期待される。
略歴
昭和31年東京都生まれ。初代坂東好太郎の三男。同48年5月歌舞伎座「奴道成寺」の観念坊で坂東彌十郎を名のり初舞台。同56年から15年間、三代目市川猿之助(二代目猿翁)の門下に入り、21世紀歌舞伎組のメンバーとして活躍。猿之助演出のオペラ「コックドール」等で演出助手を務め、坂東玉三郎の「夕鶴」では演出を行った。コクーン歌舞伎、平成中村座等、十八代目中村勘三郎との共演も多く、海外公演にも参加。平成26年に坂東彌十郎・新悟自主公演「やごの会」を立ち上げ、日本橋劇場にて第1回公演を開催。同28年フランス、スイス、スペイン3か国を巡る「やごの会」ヨーロッパ公演を成功させた。
主な作品等
「修禅寺物語」面作師夜叉王、「身替座禅」奥方玉の井、「角力場」・「引窓」濡髪長五郎、「西郷と豚姫」西郷隆盛、「野崎村」久作、「賀の祝」白太夫、「関の扉」関守関兵衛実は大伴黒主、「熊谷陣屋」白毫弥陀六

映画部門

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©Nao Sugimoto
映画監督 石井 岳龍(いしい がくりゅう)
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映画「箱男」撮影現場にて、演出中
©2024 The Box Man Film Partners
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映画「箱男」黎明の橋上シーン撮影後
©2024 The Box Man Film Partners
「箱男」の成果
石井岳龍氏の映画「箱男」は、生誕100年を迎えた世界的作家の映像化困難と言われた代表作に基づいている。原作の持つアンチロマン的な企図を十分に活かしつつも、紛れもなく石井映画としか言いようのない実験性と娯楽性が巧みにブレンドした、独自のアクション映像空間に昇華させた。半世紀近くにわたり、日本映画の枠を超えた奔放な想像力と映像表現で唯一無二の創作活動を続けてきたことも含め、円熟味を増した本作の成果を高く評価したい。
略歴
昭和32年福岡県生まれ。大学入学時「高校大パニック」で自主制作活動を開始、卒業制作「狂い咲きサンダーロード」全国公開を機にプロ活動が本格化、本能と激情が渦巻く作品を連作。作品の海外公開や映画祭で世界各国を巡る中、自らのアジア的精神性の重要さに気づき、内省世界にも重点を置いた作品創作を開始。平成18年より神戸芸術工科大学での教鞭と研究も並行させた(令和5年退官)。現在は、娯楽性と時代精神を兼ね備えた豊かな映画創作を目指し監督業を更に研磨している。平成22年芸名を聰亙から岳龍に改名。
主な作品等
(映画)「爆裂都市 BURST CITY」「逆噴射家族」「半分人間」「水の中の八月」「ユメノ銀河」「五条霊戦記」「ELECTRIC DRAGON 80000V」「シャニダールの花」「ソレダケ/that’s it」「蜜のあわれ」「パンク侍、斬られて候」、(著書)「映画創作と自分革命」

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映画監督 土井 敏邦(どい としくに)
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無人地帯となった津島の冬景色を撮る
「津島 福島は語る・第二章」の成果
NHKや民放で多くのドキュメンタリー番組を発表し、「沈黙を破る」「福島は語る」など秀れた記録映画を撮ってきた監督土井敏邦氏は、大震災時の原発事故で、大量の放射性物質が降り注ぎ、100年は帰還困難と言われた福島県東部・津島の人々の記憶と感情を長期にわたって誠実に取材し、全9章、3時間を超える圧巻の秀作「津島 福島は語る・第二章」に結実させた。災禍の時代の中で、日本と世界に通底する主題を見事に提示した、その功績に敬意を表したい。
略歴
昭和28年佐賀県生まれ。中東専門雑誌の編集記者を経てフリー・ジャーナリストに。平成5年より映像取材も開始し、NHKや民放で多くのドキュメンタリー番組を発表。昭和60年より34年間、パレスチナ・イスラエルの現地取材を続けた。平成23年の福島原発事故後は、現地の被災者たちを取材。ドキュメンタリー映画は同21年、元イスラエル軍将兵たちの証言ドキュメンタリー「沈黙を破る」を皮切りに、パレスチナ、アジア、フクシマなどをテーマに数多くの作品を制作。
主な作品等
「ガザからの報告」「愛国の告白―沈黙を破る・Part2―」「福島は語る」「ガザに生きる(5部作)」「“記憶”と生きる」「異国に生きる―日本の中のビルマ人―」「飯舘村―放射能と帰村―」「“私”を生きる」「届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと(4部作)」

音楽部門

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地歌箏曲演奏家 岡村 慎太郎(おかむら しんたろう)
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「岡村慎太郎 地唄箏曲演奏会」
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「岡村慎太郎 地唄箏曲演奏会」
「岡村慎太郎 地唄箏曲じうたそうきょく演奏会」ほかの成果
令和6年の岡村慎太郎氏の活動には、助演においても主催公演においても飛躍があった。「根曳の松」では、地歌が持つ闊達なエネルギーと三曲合奏の楽しさを生き生きと伝え、「早舟」では地歌の原点としての三味線組歌の魅力を示した。「残月」では、繊細な節回しを歌い込み、箏の音色を美しく響かせて、哀感にあふれる詞章の世界と快活にも感じられる音楽性をうまく調和させた。楽器の響きと作品の音楽性を深く追求し、共演者とのバランスも保つ氏の活動の奥行きと幅の広さが高く評価された。
略歴
昭和48年生まれ。東京藝術大学卒業、同大学院修了。在学時、宮中桃華楽堂にて御前演奏。三味線組歌、箏組歌を菊藤松雨師に師事、両巻伝授。文化庁新進芸術家国内研修制度研修生。第7回「静岡の名手たち」オーディション合格。NHK邦楽オーディション合格。第34回宮城会箏曲コンクール1位。第6回賢順記念箏曲コンクール奨励賞。第22回くまもと全国邦楽コンクール最優秀賞・文部科学大臣賞受賞。現在、宮城会、森の会、日本三曲協会、生田流協会会員。箏組歌会同人、NHK文化センター柏教室講師、上智大学箏曲部講師。
主な作品等
「残月」「松竹梅」「滝尽」「愚痴」「嵯峨の秋」、(CD)「地唄箏曲 岡村慎太郎」

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©Florian Hammerich
指揮者 阪 哲朗(ばん てつろう)
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びわ湖ホール プロデュースオペラ「ばらの騎士」
撮影:びわ湖ホール
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山形交響楽団 演奏会形式オペラシリーズ「椿姫」
©Daiki Goto
「ばらの騎士」ほかの成果
ドイツのオペラ劇場で長く活躍してきた阪哲朗氏は、びわ湖ホール芸術監督として初めてのプロデュースオペラ公演であるリヒャルト・シュトラウス「ばらの騎士」で、オーケストラを室内楽のように響かせ、台本のすみずみまで明快に聴かせることで、作品を「ドラマ」として響かせた。この手腕は山形交響楽団とのヴェルディ「椿姫」でも聴衆を魅了し、京都市交響楽団の定期演奏会(ブラームスとドヴォルザーク)では、オーケストラを東欧的な陰影で染め上げ、奔放なリズムでエキサイティングな演奏を聴かせた。
略歴
昭和43年京都府生まれ。京都市立芸術大学作曲専修を卒業後に渡欧。ウィーン国立音楽大学指揮科在学中にビール歌劇場専属指揮者となり、これまでに、アイゼナハ歌劇場並びにレーゲンスブルク歌劇場で音楽総監督ほかを歴任。ドイツ、オーストリアなど約40に及ぶオーケストラ、歌劇場に招かれ成功を収めている。日本国内においても、多くのオーケストラ公演やオペラ公演を指揮。平成7年ブザンソン国際指揮者コンクール優勝。現在、山形交響楽団常任指揮者、びわ湖ホール芸術監督、京都市立芸術大学音楽学部指揮専攻教授。
主な作品等
「フィガロの結婚」「魔笛」「こうもり」「ラ・ボエーム」「蝶々夫人」などオペラを数多く指揮。合唱曲、交響曲、オラトリオ、現代音楽など幅広い作品を指揮している。

舞踊部門

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日本舞踊家 尾上 紫(おのえ ゆかり)
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「第7回尾上紫リサイタル―花―」
清元「熊野」
撮影:加藤孝
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「第7回尾上紫リサイタル―花―」
長唄「娘道成寺」
撮影:加藤孝
「第7回尾上紫リサイタル―花―」の成果
上演の2曲ともに、確かな技術に裏打ちされた「抑制された型の中からの内面描写」に優れ、日本舞踊の魅力を十分に見せた。流儀に伝わる振付の清元「熊野」では、平宗盛と熊野のそれぞれの複雑な胸中と美しい春の情景とを品格ある所作で紡ぎ、作品の情緒を堪能させた。長唄「娘道成寺」は、この曲の表現として大切な段ごとの変化と娘の思いを、緩急自在ながらも要所を押さえた動きの中に醸し出し、洗練された舞台に仕上げた。今後も日本舞踊の深みを示す、更なる活躍が期待される。
略歴
昭和49年東京都生まれ。同53年に新橋演舞場にて3歳で初舞台。幼少期より歌舞伎興行など多くの舞台経験を経て、平成2年に尾上紫の名を許される。祖父・尾上流二代家元 初代尾上菊之丞、父・三代家元 尾上墨雪の芸を継承しながら、女流舞踊家としての表現を深めることに邁進し、自身のリサイタル開催や舞踊公演に多数出演。また同12年、ドラマ「あっとほーむ」主演、映画「長崎ぶらぶら節」出演以降、俳優としても活動。令和6年、舞台「中村仲蔵」に出演するなど活躍の場を広げている。
主な作品等
「熊野」「娘道成寺」「鷺娘」「葵の上」「あやめ」「梟祈願」雀/疾翔大力、「道成寺昔語」清姫、「静」(兼振付)、「死者の書」藤原郎女(兼振付)、日本舞踊×ヘルマンヘッセ「寝ようとして・春のことば」、上賀茂神社式年遷宮「降臨」玉依姫、「比叡山薪歌舞伎-永久の燈火-」和気広子

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Photo: Nobuhiko Hikiji
バレエダンサー 柄本 弾(つかもと だん)
 
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「ザ・カブキ」
Photo: Shoko Matsuhashi
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クランコ版「ロミオとジュリエット」
Photo: Shoko Matsuhashi
「ザ・カブキ」「ロミオとジュリエット」ほかの成果
柄本弾氏は平成20年東京バレエ団入団、同22年「ラ・シルフィード」「ザ・カブキ」で主役に抜擢され成功を収めた後、古典バレエから現代バレエまで多くの作品で主役を務め成果を上げた。60周年を迎えたバレエ団における氏の実績は高く評価できる。令和6年は特にクランコ版「ロミオとジュリエット」ロミオ役、ベジャール振付「ザ・カブキ」由良之助役で、ドラマチックな演技力とキレのあるテクニックで説得力ある作品に仕上げていたことは大いに評価される。
略歴
平成元年京都府生まれ。5歳よりバレエを始める。平成20年に東京バレエ団に入団し、同22年「ラ・シルフィード」、「ザ・カブキ」で主役に抜擢。同25年にプリンシパルに昇進した。古典作品からベジャール作品をはじめとしたコンテンポラリーまで、数々の作品で主役を踊っている。令和5年にはハンブルク・バレエ団の第48回「ニジンスキー・ガラ」に招待され、「バクチⅢ」を踊った。同6年に第36回服部智恵子賞を受賞。同5年より東京バレエ団バレエ・スタッフに就任した。
主な作品等
「ボレロ」、ブルメイステル版「白鳥の湖」、「くるみ割り人形」「ドン・キホーテ」「ジゼル」、ノイマイヤー版「ロミオとジュリエット」、「海賊」「ラ・バヤデール」、金森穣「かぐや姫」(世界初演)、「眠れる森の美女」ほか

文学部門

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詩人 野木 京子(のぎ きょうこ)
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「廃屋の月」の成果
日常の認識や感覚に生じる亀裂を直視し、不安や哀しみ、違和感や喪失感と向き合う言葉を探究する。野木京子氏の「廃屋の月」はそうした営為から生まれた詩集だと言える。詩を書く意味を「知らない廃庭か廃屋に入っていくこと」と重ねる視点は、人間と言葉との関係を真摯に見詰める心の在り方を映す。水母や樹木や死者に目を向け、耳を傾け、世界の奥行きを暗示する。詩の深さと歓びを示す豊かな実りであり、受賞にふさわしい。
略歴
昭和32年熊本県生まれ。立教大学文学部英米文学科卒業。平成7年に第一詩集「銀の惑星その水棲者たち」を発表。同19年「ヒムル、割れた野原」で第57回H氏賞、令和6年「廃屋の月」で第35回富田砕花賞、同作で同7年第3回西脇順三郎賞を受賞。
主な作品等
(詩集)「銀の惑星その水棲者たち」「枝と砂」「ヒムル、割れた野原」「明るい日」「クワカ ケルル」、(エッセイ集)「空を流れる川―ヒロシマ幻視行」

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撮影:平松市聖
小説家 町屋 良平(まちや りょうへい)
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「私の小説」の成果
「私の小説」は五つの作品(「私の文体」「私の労働」「私の推敲」「私の批評」「私の大江」)からなる短編集。タイトルが示すように、書くべき対象としての「私」に過剰に拘泥しながらも、架空作家からの「引用」や、妄想とユーモアをたっぷりまぶした作品は、書く主体としての「私」を批評する冴えた目に貫かれている。優れて自己言及的なフィクション(異形の「私小説」)によって、日本文学の「伝統」を刷新した功績は大きい。
略歴
昭和58年東京都生まれ。平成28年「青が破れる」で第53回文藝賞を受賞しデビュー。平成31年「1R1分34秒」で第160回芥川龍之介賞、令和4年「ほんのこども」で第44回野間文芸新人賞、同6年「私の批評」で第48回川端康成文学賞、「生きる演技」で第41回織田作之助賞を受賞。
主な作品等
「しき」「ぼくはきっとやさしい」「愛が嫌い」「ショパンゾンビ・コンテスタント」「坂下あたると、しじょうの宇宙」「ふたりでちょうど200%」「恋の幽霊」

美術A部門

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撮影:白井晴幸
美術家 石田 尚志(いしだ たかし)
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「絵と窓の間」 映像より
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「石田尚志 絵と窓の間」展
神奈川県立近代美術館
葉山 滞在制作風景より
「石田尚志 絵と窓の間」展の成果
身体的な行為の痕跡としてのドローイングで知られる石田尚志氏は、個展「絵と窓の間」において、絵具の層として重ねられていく絵画が、時間の層を内包する存在である意味を、制作過程の映像とキャンバスや壁画で構成するインスタレーションを通し提示した。また葉山の海に面した光差し込む展示室で会期中手掛けた壁画制作は、窓外の水平線の延長上に展開し、自然空間の時の流れと呼応する絵画への新たな取組ともなった。絵画と映像、物質とイメージ、空間と光の関係をめぐる40年に及ぶ考察と実践を、展示空間において鮮やかに示した意義は高く評価されるものである。
略歴
昭和47年東京都生まれ。絵画とその描画行為から生まれる映像やインスタレーションを発表し続けている。主な個展に「庭の外」タカ・イシイギャラリー(令和4年)、「弧上の光」国際芸術センター青森(平成31年)、「石田尚志 渦まく光 Billowing Light: ISHIDA Takashi」横浜美術館/沖縄県立博物館・美術館(同27年)。そのほかシャルジャ・ビエンナーレ13、あいちトリエンナーレ2016などに参加。作品は東京都現代美術館、愛知県立美術館、横浜美術館、トレド美術館ほかに収蔵されている。第18回五島記念文化賞美術新人賞受賞。多摩美術大学教授。
主な作品等
「部屋/形態」「フーガの技法」「海の壁」「海坂の絵巻」「リフレクション」「燃える椅子」「弧上の光」「庭の外」「絵と窓の間」ほか

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Chiharu Shiota
Berlin, 2024
Photo by Sunhi Mang
美術家 塩田 千春(しおた ちはる)
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塩田千春 つながる輪 2024年
インスタレーション:ロープ、紙
大阪中之島美術館、大阪、日本
写真:サニー・マン
©JASPAR, Tokyo, 2025 and Chiharu Shiota
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塩田千春 巡る記憶 2024年
インスタレーション:ミクスト・メディア
大阪中之島美術館、大阪、日本
写真:サニー・マン
©JASPAR, Tokyo, 2025 and Chiharu Shiota
「塩田千春 つながる私(アイ)」展ほかの成果
大阪中之島美術館で開催された個展「塩田千春 つながる私(アイ)」は、これまで氏が追求してきた「生きること」「存在の意味」というテーマに加え、パンデミックの時代を経て、人が生きる上で不可避の社会的な関係性という視点からアプローチした新作が出品されるなど、作家としての充実度の高さを示す内容だった。また中国、トルコ、チェコでの個展も開催され、生と死という根源的な問いを鮮やかでダイナミックなインスタレーションとして昇華させる氏の作品は、洋の東西を問わない普遍的テーマを探求する奥行きの深さゆえに、国際的にも広く認知されている。
略歴
昭和47年大阪府生まれ。ベルリン在住。生と死という人間の根源的な問題に向き合い、「生きることとは何か」、「存在とは何か」を探求しつつ、その場所やものに宿る記憶といった不在の中の存在を糸で紡ぐ大規模なインスタレーションを中心に、立体、写真、映像など多様な手法を用いた作品を制作。平成20年、芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。同27年には、第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館代表に選ばれる。令和元年、森美術館にて過去最大規模の個展「魂がふるえる」を開催。同2年、第61回毎日芸術賞受賞。
主な作品等
「絵になること」「皮膚からの記憶」「不確かな旅」「静けさの中で」「巡る記憶」「つながる輪」「多様な現実」

美術B部門

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現代美術家 開発 好明(かいはつ よしあき)
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個展会場風景1
(東京都現代美術館)
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個展会場風景2
(東京都現代美術館)
「ART IS LIVE ―ひとり民主主義へようこそ」展の成果
開発好明氏は1990年代から、美術という枠を超え、社会の中で何かを起こす多種多様な作家活動を街中やアートフェスティバル、被災地等で行ってきた。展示可能な作品という形で残る表現が少なく、30年以上のキャリアの全貌の把握は困難だったが、個展「ART IS LIVE ―ひとり民主主義へようこそ」において、過去記録に加え、現在進行形の作家活動を展開、鑑賞者が自ずと参加者へ、さらに行為者となっていく構造を創出した。ほぼ毎日、何かが生じる展示への能動的参加を通して、作家が継続して行ってきたこと―一人一人の存在が社会を動かし、変え得る原動力となるという気付きをもたらした。
略歴
昭和41年山梨県生まれ。多摩美術大学大学院美術研究科修了。身近な素材や出来事に柔軟に取り込み、その都度最適なメディアを使い作品を制作。平成16年に第9回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展に参加、同18年に妻有トリエンナーレ「越後妻有 大地の芸術祭2006」に出品。同28年市原湖畔美術館にて個展「中2病」を開催。令和4年ANOMALYにて個展「開発再考 Vol.2, 3」を開催。平成23年より、東日本大震災地域を巡回するディリリー・アート・サーカスを企画し学校や避難所を継続的に訪問。
主な作品等
南相馬市に建てられた「政治家の家」、日本全国を1年間かけて回る「365大作戦」、NHK BS2「開発くんがゆく」、TOKYO FM「開発くんを探せ」

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展覧会エンジニア 金築 浩史(かねちく ひろし)
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札幌国際芸術祭(SIAF)2024
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愛知県立芸術大学WS、ICC アニュアル2024
「札幌国際芸術祭2024」ほかにおけるエンジニアリングの成果
90年代から展覧会エンジニアとして、作品の設営、技術サポート、メンテナンスなどを通じて多くのアーティストやキュレーターと協働し、展覧会の成功に貢献してきた。アーティストのビジョンを実現するため、最適な機材の選定や設置方法を提案することで、作品の魅力を最大限に引き出す役割を果たし、金築浩史氏が手掛けた展示は「カネチック・アート」と呼ばれるほど、この分野で高い信頼を得ている。近年は、若手アーティストや技術者の育成にも力を注いでいる。
略歴
昭和37年島根県生まれ。平成3年より株式会社 ザ・レーザーに入社し、以降プログラミングや展覧会の設営、準備の仕事に従事。同5年よりフリーランスとなり、展覧会のテクニカルな部分の準備、監修、設営等を行い、現在に至る。令和5年文化庁長官表彰を展覧会エンジニアとして受ける。
主な作品等
「ザ・ロボット'92展」「ARTEC'91,'93,'95」「the Interaction '95,'97,'99,'01」「ポール・デマリーニス展」「ICC アニュアル 2024 とても近い遠さ」「札幌国際芸術祭2014,2017,2024」「デザインあ 展」ほか

メディア芸術部門

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漫画家 青山 剛昌(あおやま ごうしょう)
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©青山剛昌/小学館
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©2024 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
「名探偵コナン」の成果
「名探偵コナン」は今や国民的作品である。アイデアの質と量を問われる推理ものでありながら、多彩なキャラクターの魅力も加わり、高い人気を保ち続け、令和6年には連載30周年を迎えた。青山剛昌氏は平成8年からスタートしたアニメ、特に平成9年から公開が始まった劇場版にも深くコミット。劇場版も令和5年、令和6年には連続して興行収入100億円を超える大ヒットを記録した。長期にわたって良質のエンターテインメントを創出したその業績を讃えたい。
略歴
昭和38年鳥取県生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。同61年、小学館新人コミック大賞に入選してデビュー。平成6年から「週刊少年サンデー」(小学館)で連載が始まった「名探偵コナン」は令和6年現在106巻まで単行本が刊行され、全世界発行部数2億7千万冊を突破。同作は平成8年にテレビアニメ化され、映画、テレビドラマや小説、ゲームなど様々なメディアやジャンルで展開されている。同5年に「YAIBA」で、同13年に「名探偵コナン」で小学館漫画賞受賞。
主な作品等
「名探偵コナン」「まじっく快斗」「YAIBA」ほか

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ゲームクリエイター 桜井 政博(さくらい まさひろ)
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「桜井政博のゲーム作るには」の成果
これまで桜井政博氏が培ってきたゲーム制作の知見を広く共有し、ゲーム業界の発展に大きく寄与したことが理由である。YouTubeを通じて、分かりやすく、一貫したストーリー性を持った親しみやすい形で公開したことで、ゲーム制作に関心のある若者だけでなく、幅広い層へと伝わっていった。また、英語版も公開されており、国内にとどまらず、海外でもその影響が波及しており、今回、芸術選奨を受賞するに当たって十分な功績を残したと考える。
略歴
昭和45年東京都生まれ。ゲームデザイナー/ディレクター。(株)ハル研究所在籍時、「星のカービィ」、「大乱闘スマッシュブラザーズ」などを発案し、ディレクターを務める。平成15年に独立後も「大乱闘スマッシュブラザーズ」の全ての作品を監督。2022年、YouTubeチャンネル「桜井政博のゲーム作るには」を開設。日本ゲーム大賞2015経済産業大臣賞、CEDEC AWARDS 2023最優秀賞ほか受賞歴多数。
主な作品等
(ゲームソフト)「星のカービィ」シリーズ、「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズ、「メテオス」「そだてて! 甲虫王者ムシキング」「新・光神話パルテナの鏡」、(著書)「桜井政博のゲームについて思うこと」ほか

放送部門

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俳優 阿部 サダヲ(あべ さだを)
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金曜ドラマ「不適切にもほどがある!」
©TBSスパークル/TBS
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金曜ドラマ「不適切にもほどがある!」
©TBSスパークル/TBS
「不適切にもほどがある!」の成果
極端にデフォルメされた昭和時代をコミカルかつ自然に演じ切っている。時にクスッと笑える演技も交え、令和の人々を説得するかのように話を詰めていく演技には目を見張るものがある。また、このドラマ特有の毎回終盤に訪れるミュージカル仕立てのシーンも、役柄のイメージを崩すことなく踊り切っている。その後に現実のシーンに戻った際にも、不自然さがなくストーリーに戻す演技力は圧巻である。台詞回しやイメージ作りが難しいオリジナル脚本を、見事なまでに演じている。
略歴
昭和45年千葉県生まれ。平成4年より「大人計画」に参加。同年、舞台「冬の皮」でデビュー。パンクコントバンド「グループ魂」では“破壊”の名でボーカルを務める等、幅広く活動している。第45回ゴールデンアロー賞演劇賞受賞。長編映画初主演の映画「舞妓Haaaan!!!」で第31回日本アカデミー賞優秀主演男優賞受賞、その後も「死刑にいたる病」「シャイロックの子供たち」で同賞を受賞している。NODA・MAP番外公演「THE BEE」で読売演劇大賞優秀男優賞受賞。
主な作品等
(舞台)「ふくすけ 2024-歌舞伎町黙示録-」「もうがまんできない」「ツダマンの世界」「髑髏城の七人 season鳥」、(映画)「はたらく細胞」「アイ・アム まきもと」、(ドラマ)「広重ぶるう」「いだてん~東京オリムピック噺~」ほか

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撮影:鈴木慎二
プロデューサー 村瀬 史憲(むらせ ふみのり)
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©メ~テレ
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「掌で空は隠せない~1926木本事件~」
熊野市ロケ
てのひらで空は隠せない~1926木本事件~」ほかの成果
村瀬史憲氏を中心とする取材チームは、1本の番組を発火点として取材を継続し、枝分かれさせ、さらに何本もの作品に結実させていく。例えば「防衛フェリー~民間船と戦争~」(平成29年)や「面会報告~入管と人権~」(令和2年)では、これらの作品を皮切りとして同じテーマの秀作を次々に放送し続けた。「掌で空は隠せない~1926木本事件~」はおよそ100年前に発生した朝鮮人労働者の虐殺事件を検証した作品。事件を振り返ると同時に、現代での和解への希望を描いた。この作品を発火点に村瀬組は次にどんな果実を実らせるのか。
略歴
昭和45年愛知県生まれ。早稲田大学在学中から番組制作会社オフィスボウに所属。テレビ朝日「ニュースステーション」やNHKなどの番組制作に関わる。平成17年、名古屋テレビ放送に入社。報道情報番組のディレクター、ニュースデスクを担当しながらドキュメンタリーを制作。「防衛フェリー ~民間船と戦争~」(同29年)で文化庁芸術祭大賞、ギャラクシー賞報道活動部門大賞、「葬られた危機」(同30年)で民放連盟賞準グランプリ、「面会報告~入管と人権~」(令和2年)で放送文化基金賞最優秀賞、「掌で空は隠せない~1926木本事件~」で第44回「地方の時代」映像祭2024グランプリなど受賞。
主な作品等
メ~テレドキュメント「奪還~英雄の妻 佐々木敦子の70年~」「それでも、働く~ALSになったJリーグ社長~」「行ってみれば戦場~葬られたミサイル攻撃~」「シネマ狂想曲~名古屋映画館革命~」「常滑エピテーゼ~カタチとこころ~」「民意 偽造」「東京の日の丸~馬瓜エブリン26歳~」ほか
 

大衆芸能部門

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撮影:矢口亨
落語家 立川 談春(たてかわ だんしゅん)
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「芸歴40周年記念興行 立川談春独演会」
撮影:矢口亨
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「芸歴40周年記念興行 立川談春独演会」
撮影:矢口亨
「芸歴40周年記念興行 立川談春独演会」ほかの成果
芸歴40周年記念興行「立川談春独演会」、ネタ出し40席、一席目は前座噺や“随談”という構成で、東西で開催された。登場人物の心情を、時に台詞の中で、時に地に戻って掘り下げ、観客の感性に問う。美しい言葉選び、落語という形式で己の芸を作った。しかし師匠立川談志が垣間見えて、やはり落語であると主張をしているかのようだ。この数年の孤高ではない活動が、かえって己の一席を磨いた。牽引力としてのこれからを期待する。
略歴
昭和41年東京都生まれ。同59年3月の七代目立川談志に入門。同63年3月に二ツ目、平成9年に真打昇進。同20年に「赤めだか」刊行、第24回講談社エッセイ賞受賞。同年6月に歌舞伎座で「立川談志・立川談春親子会~en-taxiの夕べ」。同年12月大阪フェスティバルホールで同ホール初の落語の独演会を開催。
主な作品等
古典落語、(書籍)「赤めだか」、(テレビドラマ)「下町ロケット」ほか

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撮影:橘蓮二
落語家 柳家 喬太郎(やなぎや きょうたろう)
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撮影:橘蓮二
「喬太郎企画ネタ尽きました、お客様決めてください」ほかの成果
古典か新作か、人情噺か滑稽噺か、と分けたがる落語だが、柳家喬太郎氏の落語はそれぞれの良さを活かしたまま現代的思考で掘り下げ、見事な構成力で「壁」を壊しつつ、エンターテインメント性豊かな作品に昇華させる。上野・鈴本演芸場での企画公演は、言わば藤山寛美が挑んだ「リクエスト公演」の落語版。だが、ただの人気ネタの再演ではなく、今を生きる世代に伝わるよう工夫を凝らし、圧倒的な引き出しの多さと懐の深さを見せつけた。
略歴
昭和38年東京都生まれ。平成元年10月柳家さん喬に入門。前座名「さん坊」。同5年5月二ツ目昇進。「喬太郎」と改名。同12年真打昇進。同26年落語協会理事に就任。令和2年常任理事に就任。NHK新人演芸大賞落語部門大賞、国立演芸場花形演芸会大賞(3年連続)、芸術選奨文部科学大臣新人賞など受賞多数。
主な作品等
古典落語のほか、「ハワイの雪」「ハンバーグができるまで」「午後の保健室」「夜の慣用句」などの新作落語、(ドラマ)「昭和元禄落語心中」、(映画・舞台)「スプリング、ハズ、カム」、(ドラマ・映画)「浜の朝日の噓つきどもと」ほか

芸術振興部門

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©Masaaki Tomitori
指揮者 広上 淳一(ひろかみ じゅんいち)
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金沢市内のスポーツセンターに設置された
1.5次避難所をオーケストラ・アンサンブル金沢
(OEK)弦楽四重奏とともに訪問(令和6年2月)
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甚大な被害がもたらされた珠洲市の小学校を
OEKメンバーとともに訪問(令和6年6月)
能登半島地震の被災地における音楽による復興支援活動の成果
オーケストラ・アンサンブル金沢のアーティスティック・リーダー広上淳一氏は、避難所、病院、小学校、交流施設、道の駅など、被災者の日常に音楽を届ける活動を被災後直ちに展開。こうした訪問コンサートを今後も「5年、10年のスパンで続ける」としている。本活動では、地域に根ざして育まれてきた文化が、実質的に芸術家と市民が双方向で支え合う円環を形成しており、共生社会における今後の芸術文化活動の展開に多くの示唆を与えるものとなっている。
略歴
昭和33年東京都生まれ。尾高惇忠にピアノと作曲を師事、音楽、音楽をすることを学ぶ。東京音楽大学指揮科卒業。26歳でキリル・コンドラシン国際指揮者コンクール優勝。ノールショピング響、コロンバス響、京都市響等のオーケストラで数々のポストを歴任。コンセルトヘボウ管、イスラエル・フィル、ロンドン響、サンクトペテルブルク・フィルなどへも客演。現在、オーケストラ・アンサンブル金沢アーティスティック・リーダー、マレーシア・フィル音楽監督、日本フィル フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)、札響友情指揮者、京都市響広上淳一。東京音大指揮科教授として教育活動にも情熱を注いでいる。
主な作品等
(CD)「スウェーデンの管弦楽曲集」(ノールショピング交響楽団)、「チャイコフスキー交響曲第5番」(コロンバス交響楽団)、ラフマニノフ「交響曲第2番」(京都市交響楽団)、(公演)池辺晋一郎作曲「交響曲第11番」世界初演(オーケストラ・アンサンブル金沢とともに)、ゴリホフ作曲オペラ「アイナダマール」日本初演(日生劇場)

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撮影:前澤秀登
横浜国際舞台芸術ミーティングディレクター 丸岡 ひろみ(まるおか ひろみ)
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リチャード・シーガル/バレエ・オブ・
ディファレンス + 日本体育大学「集団行動」
(YPAM2024 KAAT神奈川芸術劇場<ホール>
撮影:前澤秀登)
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ユニ・ホン・シャープ「ENCORE – violet」
(YPAM2024 BankART KAIKO 撮影:松本和幸 )
「横浜国際舞台芸術ミーティング2024」ほかの成果
横浜国際舞台芸術ミーティング(YPAM)のディレクターとして、国内外のアーティストやプロデューサー、観客が出会う公演やミーティングを通じて舞台芸術の国際交流の発展と日本の舞台芸術を国内外に発信するプラットフォームの確立に尽力してきた。パンデミック期を柔軟な戦略により乗り越え、令和6年は、アジア/オセアニア、欧州地域の国際フェスティバルの現在と未来をテーマとしたシンポジウムの開催や、全体プログラムの強化、国内外からの参加者の増進、地域における舞台芸術環境の向上に取り組み、日本における舞台芸術の更なる発展とプレゼンスの向上に寄与した。
略歴
昭和40年神奈川県生まれ。平成元年~10年、劇団解体社制作・俳優。同3年より特定非営利活動法人国際舞台芸術交流センターに勤め同23年に理事長就任。同15~16年、文化庁新進芸術家海外研修制度によりニューヨークで研修。横浜国際舞台芸術ミーティング(YPAM)の前身である芸術見本市、東京芸術見本市(TPAM)に同7年の初回よりスタッフとして従事し、同17年より現職。特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)副理事長。
主な作品等
ポストメインストリーム・パフォーミング・アーツ・フェスティバル、IETMアジア・サテライト・ミーティング、サウンド・ライブ・トーキョーほか

評論部門

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香雪美術館学芸部長 有木 宏二(ありき こうじ)
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「ゴーガンと仏教」の成果
西洋近代文明から逃れ、南洋の仏領ポリネシアで見出した野生の美を絵画に具現したポール・ゴーガン。「ゴーガンと仏教」はそんなイメージを見事に崩壊させる。仏訳された仏教教典を通じてブッダの教えに導かれた画家が、資本主義の欲望と人間の業に抗い、「解脱」を求めて苦闘し続けた痕跡を鮮やかに読み解いていく。アジア発の新しいゴーガン像を誕生させた著者の力業を高く評価したい。正に現在が待ち望む問題提起の書である。
略歴
昭和42年大阪府生まれ。京都大学大学院人間環境学研究科(日本文化環境論講座)修了後、美術館学芸員、大学教員を歴任し、現在は香雪美術館に勤務。専門分野は西洋近代美術史。アンリ・ファンタン=ラトゥール展(平成10年)、ジョージ・シーガル展(同13年-同14年)、カミーユ・ピサロ展(同24年)などを手掛けた。ライフワークとして、恣意的に分断されているかにも見える、美術史における「西洋/東洋」を乗り越えるべく、最良の立ち位置を模索し続けている。
主な作品等
(著書)「ピサロ/砂の記憶──印象派の内なる闇」、(訳書)スティーヴン・ナドラー著「レンブラントのユダヤ人──物語・形象・魂」、同著「スピノザ ある哲学者の人生」ほか

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慶應義塾大学教授 片山 杜秀(かたやま もりひで)
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大楽必易たいがくひつい―わたくしの伊福部昭伝いふくべあきらでん―」の成果
「大楽必易―わたくしの伊福部昭伝―」は、作曲家伊福部昭との長年にわたる交流を基に、氏の言葉を再現しながらその生涯の軌跡を辿るものである。人生の細部に分け入って本心に迫ったかと思えば、その細部を日本と世界の社会情勢から俯瞰し意味付けていく。氏の音楽の音階やリズムをも蘇らせる文章からは、映画「ゴジラ」の音楽だけではない、世界の中に位置付けられる伊福部作品の世界が明瞭に見えてくる。「西洋」や「中央」におもねらず、北海道での原体験を基に作曲に邁進したという氏の足跡を語る本書は、近代の価値観をも再考させる示唆に富む一書となっている。
略歴
昭和38年宮城県生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学(政治学専攻)。学生時代から新聞、週刊誌、映画雑誌、音楽雑誌等に幅広く執筆。音楽評論家として「伊福部昭の芸術」、「日本作曲家選輯」等、CDの企画構成に数多く携わる。平成20年から慶應義塾大学法学部准教授。同年、サントリー学芸賞と吉田秀和賞を受賞。同25年、司馬遼太郎賞受賞。同25年から現職。同年からNHKFM「クラシックの迷宮」構成・出演。令和2年から三原市芸術文化センター・ポポロ館長、同6年から水戸芸術館館長。
主な作品等
(著作)「近代日本の右翼思想」「音盤考現学」「音盤博物誌」「ゴジラと日の丸」「未完のファシズム」「国の死に方」「見果てぬ日本」「平成精神史」「鬼子の歌 偏愛音楽的日本近現代史」「歴史という教養」「皇国史観」「尊皇攘夷 水戸学の四百年」「11人の考える日本人 吉田松陰から丸山眞男まで」「歴史は予言する」ほか

芸術選奨文部科学新人賞

演劇部門

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俳優 江口 のりこ(えぐち のりこ)
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「ワタシタチはモノガタリ」
撮影:御堂義乘 
写真提供:株式会社パルコ
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「リア王」
撮影:細野晋司
写真提供:株式会社パルコ
「ワタシタチはモノガタリ」「リア王」の成果
「ワタシタチはモノガタリ」では、小説家になる夢を抱いてWebライターを続けてきた40歳の独身女性を等身大の演技で見せ、一貫して関西弁を使用した。キレの良い、時に素っ気なく響く発話が笑いを誘ったが、そこには深い情感、繊細な心の揺れが確かに滲んでいた。一方、シェイクスピア劇「リア王」では父親を裏切る長女ゴネリルを印象的に表現した。働く女性でも王女でも、それぞれに存在感を示す稀有な俳優である。多彩な役柄での一層の活躍が期待される。
略歴
昭和55年兵庫県生まれ。平成12年劇団東京乾電池に入団。同14年三池崇史監督「桃源郷の人々」で映画デビュー。舞台・ドラマ・CM・映画に次々と出演。同16年「月とチェリー」では本編初主演をつとめ注目を集める。その後、話題作に多数出演。ドラマ「時効警察」シリーズにレギュラー出演し個性を発揮。ベテランから新鋭の演出家・監督まで多くの作品に出演し活動の場を広げている。令和3年「事故物件 恐い間取り」にて第44回日本アカデミー賞優秀助演女優賞、同4年エランドール賞新人賞、同7年「愛に乱暴」にて第38回高崎映画祭最優秀主演俳優賞を受賞。
主な作品等
(舞台)「星の降る時」、(映画)「愛に乱暴」「お母さんが一緒」「もしも徳川家康が総理大臣になったら」、(テレビドラマ)「連続テレビ小説 あんぱん」「ソロ活女子のススメ」シリーズほか

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©KEI OGATA
演出家 藤田 俊太郎(ふじた しゅんたろう)
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舞台「リア王の悲劇」
撮影:宮川舞子
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「VIOLET」ロンドン公演プログラムより引用
Photo by Scott Rylander
「リア王の悲劇」「VIOLET」の成果
ストレートプレイとミュージカル、いずれにおいても一歩踏み込んだクリアな解釈を行い、骨太なメッセージをエンターテインメントに昇華させている。初めてのシェイクスピア作品「リア王の悲劇」においても、使用する戯曲のバージョン選択から周到な準備に努め、根拠を示した上で、現代の価値観とコンプライアンスに依拠した明快なアップデート版を提示してみせた。「新人」の呼称にふさわしいのは年齢のみの、現代演劇界のトップランナーである。
略歴
昭和55年秋田県生まれ。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業。在学中、ニナガワ・スタジオに入る。平成27年「ザ・ビューティフル・ゲーム」の演出で第22回読売演劇大賞杉村春子賞・優秀演出家賞を受賞。以降、同賞の第24回優秀演出家賞、第28回最優秀演出家賞、第31回大賞・最優秀演出家賞、第42回菊田一夫演劇賞、第42回松尾芸能賞優秀賞など、数々の演劇賞を受賞している。また絵本ロックバンド「虹艶Bunny(にじいろばにー)」として活動中。あきた芸術劇場ミルハスアドバイザー。
主な作品等
「ミュージカル手紙2025」「ラヴ・レターズ」「絢爛豪華 祝祭音楽劇「天保十二年のシェイクスピア」」「東京ローズ」「ラグタイム」「ヴィクトリア」「ラビット・ホール」

映画部門

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俳優 河合 優実(かわい ゆうみ)
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©2023「あんのこと」製作委員会
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©2024「ナミビアの砂漠」製作委員会
「ナミビアの砂漠」「あんのこと」ほかの成果
24歳の若さで、既にスケールの大きさと表現の繊細さを兼ね備えた俳優が現れた。主演の2本「あんのこと」「ナミビアの砂漠」では、必ずしも観客の共感を得るタイプの人物ではないにもかかわらず、いとおしささえ感じる魅力的な造形をしてみせた。河合優実氏以外の俳優が演じたら、全く異なる印象の作品になっていただろう。役柄が難しければ難しいほど力を発揮する氏は、作品のクオリティーを上げることのできる俳優である。
略歴
平成12年東京都生まれ。令和3年「由宇子の天秤」「サマーフィルムにのって」での演技が評価され各賞の新人賞を受賞。同5年「少女は卒業しない」で映画初主演、「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」で連続ドラマ初主演を務める。同6年「ナミビアの砂漠」「あんのこと」で第67回ブルーリボン賞、第98回キネマ旬報ベスト・テンなどで主演女優賞を受賞。ほか、話題作への出演が続く。
主な作品等
(映画)「佐々木、イン、マイマイン」「愛なのに」「PLAN75」「ルックバック(劇場アニメ)」「敵」「悪い夏」「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」ほか、(テレビドラマ)「不適切にもほどがある!」「RoOT/ルート」「あんぱん」ほか

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映画監督・脚本家 三宅 唱(みやけ しょう)
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©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会
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「夜明けのすべて」撮影風景
「夜明けのすべて」の成果
三宅唱氏は、現代日本を代表する新たな世代の映画監督の一人として、既に着実に地歩を築いてきた。「夜明けのすべて」は、原作小説の世界を丁寧に活かしながら、初期作以来、若者たちの群像劇をみずみずしく描き出してきた氏の作品世界の一つの到達点を示した。撮影に用いた16ミリフィルムも豊かな映画世界と合致して素晴らしい効果を上げている。令和6年の日本映画の最良の成果である本作からは、今後の氏の更なる飛躍が存分に窺える。
略歴
昭和59年北海道生まれ。一橋大学社会学部卒業。映画美学校フィクションコース初等科修了。平成24年劇場公開第1作「Playback」を発表、ロカルノ国際映画祭インターナショナルコンペティション部門に選出されたのち、高崎映画祭新進監督グランプリほかを受賞。同30年佐藤泰志原作の映画化作品「きみの鳥はうたえる」を監督。令和4年小笠原恵子著「負けないで」の映画化作品「ケイコ 目を澄ませて」をベルリン国際映画祭エンカウンターズ部門に出品、毎日映画コンクール日本映画大賞ほかを受賞。同6年東京国際映画祭にて黒澤明賞を受賞。
主な作品等
(映画)「ケイコ 目を澄ませて」「ワイルドツアー」「きみの鳥はうたえる」「密使と番人」「THE COCKPIT」「Playback」「やくたたず」、(ビデオインスタレーションほか)「ワールドツアー」「7月32日」「無言日記」シリーズ

音楽部門

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©TAKA MAYUMI
ピアニスト 北村 朋幹(きたむら ともき)
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CD/SACD
「リスト 巡礼の年 全3年」
[フォンテック]
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北とぴあ国際音楽祭2024
「北村朋幹フォルテピアノ・リサイタル」
提供:(公財)北区文化振興財団
CD「リスト 巡礼の年 全3年」ほかの成果
磨き抜かれた水晶を思わす響きで、どんな細部をも漫然と弾き飛ばさず、確たる解釈を聴かせる北村朋幹氏。そのピアニズムが、リスト作曲「巡礼の年」全曲を収めたディスクにおいて、一つの頂点に達した。グリーグ、ノーノほかの作品を併録するセンス、並びにそれら楽曲とリストとの関連について述べた自身による解説文も非凡というほかない。旺盛な公演活動では、フォルテピアノ演奏でも秀でていることをこの令和6年に初めて披露した。美的にも知的にも余人を圧倒する音楽家の出現を、言祝ぎたい。
略歴
平成3年愛知県生まれ。東京藝術大学に入学後、同23年よりベルリン芸術大学にて学び最優秀の成績で卒業。東京音楽コンクール第1位・審査員大賞(全部門共通)、浜松、シドニー、リーズなどの国際コンクールでも入賞。令和4年文化庁芸術祭賞レコード部門優秀賞、同年「北村朋幹 20世紀のピアノ作品」公演が第22回佐治敬三賞受賞。日本国内をはじめヨーロッパ各地で、オーケストラとの共演、リサイタル、室内楽、そして古楽器による演奏活動を定期的に行っている。
主な作品等
(録音)「ケージ プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード」ほか、(公演)「20世紀のピアノ作品」(びわ湖ホール)、細川俊夫「ピアノ五重奏のための《オレクシス》」(アルディッティ弦楽四重奏団と共に世界初演)、リサイタルシリーズ「Real-time」

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©T. Tairadate
都山流尺八演奏家 長谷川 将山(はせがわ しょうざん)
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「B→C バッハからコンテンポラリーへ264
長谷川将山(尺八)」
主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
©T. Tairadate
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「B→C バッハからコンテンポラリーへ264
長谷川将山(尺八)」
主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
©T. Tairadate
「B→C 264 長谷川将山(尺八)」の成果
「都山流におけるヴィルトゥオジティー(名技性)」と「尺八の器楽的可能性」の二つを軸とする二部構成の演奏会は、企画力の高さとともに、新進気鋭の若手尺八家としての希有な実力を鮮烈に印象づける内容であった。尺八の“現在”に果敢に挑戦し、超絶技巧と高い表現力を駆使した長谷川将山氏の演奏には、想像を超える尺八の可能性が広がっていた。同時に、虚無僧の法器という歴史が培ってきた尺八の精神性と尺八本来の深淵な音色も輝いていた。将来の活躍を大いに期待できる新人として評価できる。
略歴
平成6年神奈川県生まれ。10歳より尺八を始め、藤原道山に師事。都山流尺八楽会准師範検定試験、師範検定試験ともに首席登第。東京藝術大学卒業、同大学大学院修了。在学時より継続する邦楽楽曲の資料収集及び研究を通じて、尺八音楽を様々な角度から見つめている。近年、山内惠介のコンサートや、藤井風の録音やツアーに参加するなど活動は多岐にわたり、令和6年、自身初のソロ公演「長谷川将山 第一回 尺八リサイタル」を浜離宮朝日ホールにて開催。都山流尺八楽会所属・師範、都山流将山会主宰。
主な作品等
(録音)多重録音「ドビュッシー:夜想曲「雲」-全員将山による尺八アンサンブルver.-」、藤井風「へでもねーよ」ほか、(演奏)山月記 名人伝(構成・演出 野村萬斎)ほか

舞踊部門

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撮影:HARU
振付家・ダンサー・演出家 スズキ 拓朗(すずき たくろう)
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おどるシェイクスピア
「PLAY!!!!!〜夏の夜の夢〜」
撮影:HARU
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おどる絵本「じごくのそうべえ」
撮影:HARU
おどるシェイクスピア
「PLAY!!!!! 〜夏の夜の夢〜」ほかの成果
主宰するダンス・カンパニーCHAiroiPLINで深い文学性に裏打ちされた新作をコンスタントに発表するほか、テレビ、ミュージカル等でも活躍し、現在最も注目される若手振付家の一人である。令和6年は、「おどる落語「らくだ」」「おどる絵本「じごくのそうべえ」」、連続して取り組んでいるシェイクスピア戯曲から「おどるシェイクスピア「PLAY!!!!!〜夏の夜の夢〜」」ほかを上演。稚気に富むと同時に繊細、また驚くべき独創性と同時代性やユーモアをもって古典を再解釈し、大きな成果を挙げるとともに今後の更なる飛躍を期待させた。
略歴
昭和60年新潟県生まれ。桐朋学園芸術短期大学(学長/蜷川幸雄)にて演劇・パントマイム・ダンスを習得。ダンス×演劇の可能性を打ち出すダンスカンパニーCHAiroiPLIN(チャイロイプリン)主宰。NHKみいつけた!「ウキウキの木」振付出演、2.5次元、日生劇場、博多座公演への振付など多数。文化庁芸術祭舞踊部門新人賞、横浜DANCE COLLECTION EX奨励賞、舞踊批評家協会新人賞、JaDaFo賞、若手演出家コンクール最優秀賞。紅白歌合戦、FNS歌謡祭などに出演。国際文化学園非常勤講師。平成27年度東アジア文化交流使。
主な作品等
(構成・振付・演出)おどるシェイクスピア「BALLO~ロミオとジュリエット〜」、おどる戯曲「三文オペラ」、(振付・演出)おどる絵本「みえるとかみえないとか」(作/ヨシタケシンスケ)、(振付)東宝ミュージカル「この世界の片隅に」、COCOON PRODUCTION 2022+CUBE 25th PRESENTS「世界は笑う」

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©Matsuda Tadao
歌舞伎俳優・日本舞踊家 中村 鷹之資(なかむら たかのすけ)
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「棒しばり」 ©Matsuda Tadao
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「二人三番叟」 ©Matsuda Tadao
「第九回翔之會」の成果
中村鷹之資氏は、25歳という若さであるが自身の勉強会を既に9回重ねている。今回は「二人三番叟」の三番叟を狂言の野村裕基氏と共演ではつらつとした好演を見せ、歌舞伎舞踊狂言取り物の傑作「棒しばり」では次郎冠者を力演し圧倒的な評価を得た。文部科学大臣新人賞にふさわしい清新な舞台は、爽やかな印象を観客に与え、舞踊界にも大きな刺激となったことだろう。
略歴
平成11年東京都生まれ。五世中村富十郎の長男。同13年4月歌舞伎座で中村大を名乗り、「石橋」で文珠菩薩を勤め初舞台。同17年11月歌舞伎座「鞍馬山誉鷹」の牛若丸で初代中村鷹之資を披露。同25年より自身の勉強会「翔之會」を主宰し、研鑽を重ねながら古典の継承に努める。また、新作歌舞伎「刀剣乱舞」や、映画「家族はつらいよ」への出演、令和6年舞台「有頂天家族」下鴨矢三郎役にて主演を勤めるなど新しい分野にも精力的に挑戦している。
主な作品等
「三社祭」悪玉、「船弁慶」静御前のちに平知盛の霊、「連獅子」狂言師左近のちに仔獅子の精、「二人椀久」椀屋久兵衛、「絵本太功記」武智十次郎、「仮名手本忠臣蔵 七段目」大星力弥、「元禄忠臣蔵」大石主税、「供奴」「越後獅子」「玉兎」「車引」梅王丸、新作歌舞伎「刀剣乱舞」同田貫正国

文学部門

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写真:柏原 力
小説家・詩人 井戸川 射子(いどがわ いこ)
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「無形」の成果
井戸川射子氏の「無形」は、海に面する団地を舞台にして、立ち退きを迫られている老若男女の住民たちの姿を描いた作品だが、独特の句読点の打ち方、切れ目を感じさせない焦点人物の切り替えといった新しい手法によって、変わらないものと変わるもの、形のあるものと形のないものを言葉で表現することに成功している。言語芸術としての小説にしか表現できないものを絶えず追求しようとする姿勢は高く評価でき、今後の更なる可能性も期待させる点で、文部科学大臣新人賞にふさわしい。
略歴
昭和62年兵庫県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。平成30年、第一詩集「する、されるユートピア」を私家版にて発行。同31年、同詩集にて第24回中原中也賞を受賞。令和3年に小説集「ここはとても速い川」で第43回野間文芸新人賞を、同4年に「この世の喜びよ」で第168回芥川龍之介賞を受賞。
主な作品等
(小説)「ここはとても速い川」「この世の喜びよ」「共に明るい」「移動そのもの」、(詩集)「する、されるユートピア」「遠景」

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俳人 西村 麒麟(にしむら きりん)
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かもめ」の成果
西村麒麟氏の句集「鷗」は生き物の句が、まず魅力的である。「やどかりの小さき顔が脚の中」「後列の頑張つてゐる燕の子」「放屁虫後ろの足をひよいと上げ」。よく観察して、その生き物をいきいきと捉え得ている。その生の可憐さまでを感じさせている。「インバネス死後も時々浅草へ」といった不思議が表れている句も貴重である。図太い心と細やかな表現力で、俳句に新しい世界をもたらす可能性をもった作者だ。
略歴
昭和58年大阪府生まれ。俳句結社「麒麟」主宰「古志」同人。平成21年第1回石田波郷俳句新人賞、同26年第5回田中裕明賞及び第4回芝不器男俳句新人賞大石悦子奨励賞、同28年第7回北斗賞、令和元年第65回角川俳句賞受賞。同5年俳句結社「麒麟」創刊。句集に「鶉」、「鴨」。石田波郷俳句新人賞選者(第13回~15回)。俳句甲子園審査委員長(第25回~27回)。
主な作品等
第一句集「鶉」、第二句集「鴨」

美術A部門

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撮影:青山彩加
美術家 青山 悟(あおやま さとる)
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「青山悟 刺繡少年フォーエバー」展
撮影:宮島径
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「目黒区美術館アウトリーチプログラム
私たちの身近なところにいるモンスター」
撮影:山田真規子
「青山悟 刺繍ししゅう少年フォーエバー」展ほかの成果
資本主義、労働価値、暴動、ジェンダー問題…青山悟氏はこのような現実的で過酷な課題の歴史を精査し、そこから炙り出される違和感と疑義を作品化することで現代を明快に問う作家である。過去と現在を繋げ、見る者を思考させる力とユーモアを持っている。令和6年春の「青山悟 刺繍少年フォーエバー」展は氏の実力を見せる良い機会となった。氏は絵画や彫刻という分野には収まらない刺繍表現を目覚めさせた。この稀有で知的な手作業を、現代の芸術まで昇華させた功績が高い評価に繋がった。
略歴
昭和48年東京都生まれ。平成10年ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ・テキスタイルアート学科卒業。同13年シカゴ美術館附属美術大学にて修士号を取得。工業用ミシンを用いて、変容し続ける人間性や労働の価値を問いながら、刺繍の枠を拡張する作品を発表している。主な展覧会に「ワールド・クラスルーム」(令和5年、森美術館)、「Unfolding: Fabric of Our Life」(平成31年、CHAT、香港)、「横浜トリエンナーレ」(同29年、横浜美術館ほか)がある。東京都現代美術館や森美術館、京都国立近代美術館などに作品が収蔵されている。
主な作品等
「東京の朝」「About Painting」「Map of The World (Dedicated to unknown Embroiderers)」「8 Hours」「The Lonely Labourer」「News From Nowhere(Labour Day)」「Everyday Art Market」ほか

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漆芸家 笹井 史恵(ささい ふみえ)
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「風様雷様」
各 幅82×奥行23×高さ70.5cm
乾漆に色漆
笹井史恵 漆芸展「風様かぜさまふわり、たちまちに雷様かみなりさま」ほかの成果
布や和紙貼りした土台となる形状に漆を塗り磨き上げる乾漆の技法により、生命感溢れる造形を生み出す。数年来手掛ける色漆は笹井史恵氏自身の調合によるものだが、単色から多色へと色重ねを試みることで造形を形から一変させた。一見ポップに見えるその配色と捉えどころのないフォルムは、日本の色と自然や歴史的景観の中から抽出されたものであり、いずれの作からも日本に根付いてきた伝統と風土が香る。戦後、美術の土壌で彫刻的であることを求められてきた日本の工芸に、これら作品群は改めて現代の工芸としてあるべき必然性を示してくれる。
略歴
昭和48年大阪府生まれ。平成10年京都市立芸術大学大学院修了。現在、同大学工芸科漆工専攻教授。同26年京都市芸術新人賞、同27年タカシマヤ美術賞、同年京都府文化賞奨励賞、令和4年京都美術文化賞。近年の個展に、髙島屋美術画廊で、同元年「空のさかな」。パブリックコレクションとして、国立工芸館、茨城県近代美術館、豊田市美術館、ミネアポリス美術館、ボストン美術館、ギメ東洋美術館、フィラデルフィア美術館、ヴィクトリア&アルバート美術館などで収蔵。
主な作品等
「風様雷様」「藍洞・水の紋」「八雲様」「凜として」「さはやか」「かはゆし」「月のさかな」「金魚-ふわり」「金魚-ひらり」「風来の雲」「かさね」「むすび」「海星」「もも」「マンゴスチン」「マンゴーフルーツ」「華実」「華」「ビラブド」「アクセプタブル」ほか

美術B部門

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アーティスト 金仁淑(きむいんすく)
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「Eye to Eye, 東京都現代美術館Ver.」(2024)
提供:金仁淑
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「House to Home | Ari, A letter from Seongbuk-dong」(2024)
提供:東京都写真美術館
撮影:中川周
「Eye to Eye」ほかの成果
金仁淑氏はこれまで歴史や伝統における共同体、個の関係性、アイデンティー等を主題に、作品を多数制作してきたが、令和6年は取材・制作を継続してきた題材を一層数多く、連続して展示した年となる。とりわけブラジルルーツの児童受入れを行う私立保育・教育施設で出会った子供を丁寧に取材した「Eye to Eye」では、被写体をほぼ原寸大で投影するスクリーンを点在させ、その間を鑑賞者が巡り歩く空間を作り出し、個と個の出会いや関係を再考させた。今後も歴史認識や社会的背景の枠組みを超えて、私たちが目前の事象や個人と真摯に向き合うきっかけとなるような作品を期待している。
略歴
多様な「個」の日常や記憶、歴史、伝統、関係性、共同体の中に存在する個々のアイデンティティなどをテーマに、移民や地域コミュニティの中でコミュニケーションを基盤としたプロジェクトを行う。その過程で生まれた「出逢い」を表現するインスタレーションを制作し、光州市立美術館での個展をはじめ東京都現代美術館、森美術館、大邱フォトビエンナーレ、香港国際写真祭などの企画展で発表。恵比寿映像祭2023コミッション・プロジェクト第一回特別賞(東京都写真美術館)、第48回木村伊兵衛写真賞などを受賞。
主な作品等
「Between Breads and Noodles」「House to Home」「The Real Wedding Ceremony」「SAIESEO: between two Koreas and Japan」「sweet hours」

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撮影:野村佐紀子
現代美術家
Nerhol
田中 義久(たなか よしひさ)
飯田 竜太(いいだ りゅうた)
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「水平線を捲る」千葉市美術館
撮影:市川靖史
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「水平線を捲る」千葉市美術館
撮影:市川靖史
「水平線をめくる」展ほかの成果
グラフィックデザインを基軸とする田中義久氏と彫刻家の飯田竜太氏という、専門領域の枠を超えた両氏の対話を起点とする表現活動を展開しているNerhol。連続イメージを積層し、手で「彫る」ことで時間と空間の多層性を探る代表作をはじめ、自然環境と人間社会、静止と移動、可視性と不可視性など様々な境界を行き来するようにして複雑に絡み合っている事象を掘り起こし、切り開いている。大規模個展「Nerhol 水平線を捲る」は17年間の活動の変遷やその深化を示しただけでなく、理解できないことを覆うものを捲り上げて新たな地平を探ろうとする彼らの更なる活躍を大いに期待させる力に満ちていた。
略歴
Nerholは平成19年に結成されたアーティストデュオ。田中は昭和55年静岡県生まれ、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科在学中。飯田は同56年静岡県生まれ、東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術専攻修了。写真と彫刻を往還する独自の表現を通じ、人間社会と自然環境、時間と空間に深く関わる多層的な探究を続けている。主な個展に、太宰府天満宮宝物殿「Tenjin, Mume, Nusa」、レオノーラ・キャリントン美術館「Beyond the Way」、金沢21世紀美術館「Promenade / プロムナード」がある。
主な作品等
「Misunderstanding Focus」「roadside tree」「Representation」「Interview」「Remove」「carve out」「Naturalized Plants」「Tenjin」「Canvas」「Read the historical facts」ほか

メディア芸術部門

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アニメーター・アニメーション監督 押山 清高(おしやま きよたか)
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劇場アニメ「ルックバック」
配給:エイベックス・ピクチャーズ
©藤本タツキ/集英社
©2024「ルックバック」製作委員会
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映画「ルックバック」の成果
「鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星」でアニメーションディレクターとして大きな働きを見せた押山清高氏は、その後、演出にも仕事を広げ、「ルックバック」は監督第2作に当たる。原作を丁寧に読解した演出に加え、本作の原画の大半を一人で描くことで、「描く人」を主題とする原作の精神を見事に画面に定着させた。中でも主人公・藤野が雨中をスキップするシーンは、アニメ史上に残る名シーンである。今後の躍進を期待したい。
略歴
昭和57年福島県生まれ。平成16年より株式会社ジーベックでアニメーターとしての活動を開始し、同18年には「電脳コイル」で作画監督を務める。その後、さまざまな作品やアニメ制作スタジオで、監督・脚本・デザイナーなど幅広い役割を担う。同29年、アニメーション制作会社スタジオドリアンを設立し、短編「SHISHIGARI」を制作。「ルックバック」は第48回日本アカデミー賞、第49回報知映画賞、第16回TAMA映画賞をはじめ、多くの賞を受賞した。
主な作品等
(監督、脚本、デザイナー)「フリップフラッパーズ」「SHISHIGARI」、(脚本、演出、デザイナー、作画監督)「スペース☆ダンディ シーズン 2」、(デザイナー、演出、作画監督)「DEVILMAN crybaby」、(デザイナー)「チェンソーマン」、(演出、作画監督)「映画ドラえもん のび太の新恐竜」、(アニメーションディレクター)「鋼の錬金術師嘆きの丘(ミロス)の聖なる星」、(作画監督)「電脳コイル」、(原画)「風立ちぬ」「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」「借りぐらしのアリエッティ」「君たちはどう生きるか」

写真
ゲームクリエイター 橋野 桂(はしの かつら)
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©ATLUS. ©SEGA.
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©ATLUS. ©SEGA.
「メタファー : リファンタジオ」の成果
現代を舞台にしたRPG「真・女神転生」をリブランディングした「ペルソナ」シリーズ3作目以降のプロデュース、ディレクションを歴任。スタイリッシュなルック、軽快なテンポでグローバルに若い世代の支持を集める。授賞対象となった「メタファー:リファンタジオ」では満を持して王道ファンタジーの完全新作に挑み、瞬く間に全世界で100万本を突破。漫画、アニメのナラティブを進化させたJRPG。間違いなく現代のJRPGの旗手である。
略歴
新潟県生まれ。株式会社アトラス クリエイティブプロデューサー兼ディレクター。平成6年にアトラスに入社後、同15年に「真・女神転生Ⅲ-NOCTURNE」のディレクターを務める。その後、「ペルソナ3」、「ペルソナ4」、「ペルソナ5」のディレクターとプロデューサーを担当。同28年に発売された「ペルソナ5」は全世界320万本を売り上げ、数々のゲームアワードを受賞した。
主な作品等
「真・女神転生Ⅲ-NOCTURNE」「ペルソナ3」「ペルソナ4」「ペルソナ5」「キャサリン」

放送部門

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ディレクター 上田 大輔(うえだ だいすけ)
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「さまよう信念 情報源は見殺しにされた」
取材時撮影
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「さまよう信念 情報源は見殺しにされた」
撮影時にカメラマンと
「さまよう信念 情報源は見殺しにされた」の成果
弁護士資格を持ち、関西テレビの法務部勤務から、報道局へ異動。その後、「引き裂かれる家族~検証・揺さぶられっ子症候群」、「逆転裁判官の真意」などでテーマ性、クオリティーともに高い作品を作り上げ、ベネチアテレビ賞などで入賞を果たしている。令和6年の「さまよう信念 情報源は見殺しにされた」でも、時代から忘れられそうな事実に、弁護士であるディレクターならではの視点で切り込み、独自の作品に仕上げている。今後も様々な題材に挑んでほしいディレクターである。
略歴
昭和53年兵庫県生まれ。早稲田大学法学部、北海道大学法科大学院卒業。平成21年関西テレビ放送入社、社内弁護士として法務担当。同28年に報道局へ異動。大阪府政・司法キャップ等を経て現在「ザ・ドキュメント」ディレクター。同29年から「揺さぶられっ子症候群」を巡る虐待冤罪の取材を続けている。第75回文化庁芸術祭賞優秀賞、第61回ギャラクシー賞選奨、2020年日本民間放送連盟賞最優秀賞、第44回「地方の時代」映像祭2024優秀賞、第15回座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル大賞など受賞。
主な作品等
ザ・ドキュメント「ふたつの正義 検証・揺さぶられっ子症候群」「裁かれる正義 検証・揺さぶられっ子症候群」「引き裂かれる家族 検証・揺さぶられっ子症候群」「逆転裁判官の真意」

写真
ディレクター 大島 隆之(おおしま たかゆき)
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元特攻隊員への取材。
終戦の日の午後に出撃予定だった。
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NHKスペシャル
「“一億特攻”への道 〜隊員4000人 生と死の記録〜」より。
光の柱は戦死した特攻隊員の故郷を表している。
「“一億特攻”への道 〜隊員4000人 生と死の記録〜」の成果
「“一億特攻”への道〜隊員4000人 生と死の記録〜」は15年にわたりこのテーマを取材してきた大島隆之氏の到達点を示す番組である。探し出せる限りの元搭乗員の証言を記録し、全国400か所の遺族を訪ね歩いた。地を這うような取材から「特攻熱」とも言うべき国を挙げての熱狂が見えてくる。人々が特攻に「希望」を見出し、メディアが増幅し、現実とかけ離れた妄想が社会を支配していく。その不気味なメカニズムは現代にも重なる。今後、特攻を論じる際に必ず参照されるべき作品である。
略歴
昭和54年東京都生まれ。大学で歴史学を専攻(考古学)。平成14年NHKエンタープライズ入社。主に災害や戦争をテーマとする証言ドキュメンタリーを制作。同23年NHKスペシャル「巨大津波 その時ひとはどう動いたか」(第49回ギャラクシー奨励賞)、同24年「巨大戦艦 大和~乗組員が見つめた生と死~」(第29回ATP賞ドキュメンタリー部門優秀賞)、同25年「零戦 搭乗員が見つめた太平洋戦争」(第30回ATP賞グランプリ・ドキュメンタリー部門最優秀賞)など。
主な作品等
NHKスペシャル「巨大津波 その時ひとはどう動いたか」、「特攻なぜ拡大したのか」、証言記録・東日本大震災「第1回 陸前高田」「第3回 南相馬」、BS特集「巨大戦艦大和」、「零戦」「独裁者ヒトラー 演説の魔力」「少年たちの連合艦隊」「真珠湾80年 生きて 愛して、そして」「特攻4000人 生と死 そして記憶」ほか

大衆芸能部門

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活動写真弁士 坂本 頼光(さかもと らいこう)
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無声映画「忠次旅日記」(1927)
監督:伊藤大輔
撮影:博多活弁パラダイス実行委員会
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無声映画「喧嘩安兵衛」(1928)
監督:湊 岩夫
撮影:石郷友仁
寄席定席における活弁の芸ほかの成果
寄席定席公演に映像投影を持ち込んだ努力により「活動写真弁士」が身近になり、存在感が再認識された。寄席演芸に一つのジャンルを増やしたばかりでなく、無声映画説明の随所に笑いをちりばめる。自作アニメ、古い映画の名場面に声色を駆使するオリジナリティー。ナレーションでも情報伝達に弁士の個性と知見を加える。素材を買い集めて次世代へ繋ごうという熱意からの努力が、語り手としての可能性を拡げる結果となった。元の芸の枠を超える次への展開を期待する。
略歴
昭和54年東京都生まれ。少年時代は漫画家志望で、水木しげるに傾倒。水木タッチの絵ばかり描く日々を送るも、中学2年頃より映画熱に憑かれ、やがて無声映画の説明者である活動写真弁士を志す。平成12年、嵐寛寿郎主演「鞍馬天狗」前編の説明でデビュー。現在までに国内外の無声映画約120本を説明する傍ら、絵心を活かし、イラスト、自作アニメを制作しての活弁、またアニメやCMの声優も務めている。同29年花形演芸大賞銀賞、同31年同金賞受賞。周防正行監督映画「カツベン!」では活弁指導担当。映画祭、寄席出演多数。落語芸術協会所属。
主な作品等
(映画説明吹込み)Blu-ray伊藤大輔監督「忠次旅日記・長恨」、DVD「チャップリン・ザ・ルーツ」、(自作動画)水木しげる原作漫画を加工し動画化、「花町ケンカ大将」「幸福の甘き香り」ほか、(声優・ナレーター)「クラユカバ」「JAL名人会」ほか

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作曲家 渡邊 琢磨(わたなべ たくま)
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映画「ナミビアの砂漠」
オリジナル・サウンドトラック
©2024「ナミビアの砂漠」製作委員会
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映画「Cloud クラウド」
オリジナル・サウンドトラック
©2024「Cloud」製作委員会
映画「ナミビアの砂漠」「Cloud クラウド」ほかにおける音楽の成果
海外でも評価の高い渡邊琢磨氏は、多くの映像作品に音楽を提供してきた。令和6年カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞し話題になった映画監督山中瑶子氏の「ナミビアの砂漠」、日本を代表する映画監督黒沢清氏の「Chime」「Cloud クラウド」と話題作3作の音楽を担当。クラシカルなオーケストレーションや電子音、ノイズなどの音響系、アンビエントなサウンド・デザインなど様々な手法をイマーシブに駆使する偉才である。既にイギリスを中心に世界でも注目を集める才能だが、彼の手掛ける映像のための作品や音楽作品は今後もその独自の世界観を発展させていくだろう。
略歴
宮城県生まれ。高校卒業後バークリー音楽大学へ留学。帰国後、デヴィッド・シルヴィアンのワールドツアーへの参加など国内外のアーティストと多岐にわたり活動を行う。自身の活動と並行して映画音楽も手掛ける。近年の作品には、渡辺健作監督「はい、泳げません」(令和4年)、黒沢清監督「Chime」(同6年)、山中瑶子監督「ナミビアの砂漠」(同6年)などがある。
主な作品等
(映画音楽)「まだここにいる」オリジナル・サウンドトラック、「あのこは貴族」オリジナル・サウンドトラック、「いとみち」オリジナル・サウンドトラック、(アルバム)「Last Afternoon」ほか

芸術振興部門

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Art Center Ongoing代表 小川 希(おがわ のぞむ)
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「芸術激流2024ラフティング+アート」
撮影:赤石隆明
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「芸術激流2024ラフティング+アート」
撮影:赤石隆明
「芸術激流2024 ラフティング+アート」ほかの成果
平成20年、東京・吉祥寺に実験的な芸術表現を追求する芸術複合施設「Art Center Ongoing(アートセンター・オンゴーイング)」を開設。国際的なネットワークを活かした滞在制作プログラムや、芸術祭への企画参加など幅広く活動。令和6年には「芸術激流2024ラフティング+アート」で、御岳渓谷を会場に、急流を下る観客に現代美術家や詩人らが作品発表を行い、従来の展覧会の枠組みを超えて、表現者と鑑賞者の協力関係の中で成立する作品鑑賞における合意形成の在り方を拡張する活動を展開した。
略歴
昭和51年東京都生まれ。平成20年1月に東京・吉祥寺に芸術複合施設Art Center Ongoingを設立。文化庁新進芸術家海外研修制度にてウィーンに滞在(令和3年-同4年)。中央線高円寺駅から国分寺駅周辺を舞台に展開する地域密着型アートプロジェクトTERATOTERAディレクター(平成21年-令和2年)、レター/アート/プロジェクト「とどく」ディレクター(令和2年-同4年)、茨城県県北芸術村推進事業交流型アートプロジェクトキュレーター(令和元年)、など多くのプロジェクトを手掛ける。
主な作品等
「Art Center Ongoing」で開催する展覧会の企画制作、「レター/アート/プロジェクト「とどく」」のキュレーション、「TERATOTERA」の企画制作

写真
提供:ヘラルボニー
ヘラルボニー代表取締役/Co-CEO
松田 崇弥(まつだ たかや)
松田 文登(まつだ ふみと)
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「HERALBONY Art Prize 2024」
提供:ヘラルボニー
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「JAL国際線ビジネスクラス機内
アメニティオリジナルポーチ全6種」
提供:ヘラルボニー
「HERALBONY Art Prize 2024」ほかの成果
松田崇弥氏と松田文登氏は、主に知的障害のある作家が手掛けたアートの、社会の中での流通を図るために、平成30年に株式会社ヘラルボニーを起業した。令和6年には「HERALBONY Art Prize」を創設したほか、パリにヨーロッパ支社を設立して海外活動の拠点とするという特筆すべき実績があった。著作権管理やライセンス料の適切な設定によって、障害のある作家が自立する道を開くという一見困難な挑戦を積極的にしている点において、高く評価したい。
略歴
平成3年岩手県生まれ。双子の兄弟。弟・松田崇弥が、小山薫堂率いる企画会社オレンジ・アンド・パートナーズを経て、同30年7月に双子の兄・松田文登と共にヘラルボニーを設立。社名の由来は、重度の知的障害を伴う自閉症のある4歳上の兄・翔太が小学校時代に自由帳に記していた謎の言葉。「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、福祉を起点に新たな文化の創造に挑む。Forbes JAPANが選出する30組の文化起業家「CULTURE-PRENEURS 30」受賞。
主な作品等
(著書)「異彩を、放て。―「ヘラルボニー」が福祉×アートで世界を変える―」

評論部門

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北海学園大学准教授 高橋 義彦(たかはし よしひこ)
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「ウィーン1938年最後の日々―オーストリア併合と芸術都市の抵抗」の成果
「ウィーン1938年最後の日々―オーストリア併合と芸術都市の抵抗」は、アドルフ・ヒトラーの侵略により、オーストリアが併合され、国家が消滅した事件とその後を描く。当時の首相シュシュニクを軸に、文化人の群像が鮮やかに浮かぶ。爛熟した文化が、あっけなく崩壊していくさまを活写する。ヨーロッパの現在を考える上でも貴重な示唆に満ちている。巧みな構成、飾らない文章、物語る力。批評文芸の優れた達成である。
略歴
昭和58年北海道生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻後期博士課程単位取得退学。博士(法学)。北海学園大学法学部准教授(政治思想史を担当)。主に19世紀末から20世紀前半のオーストリア・ウィーンの政治史・文化史・思想史を横断的に研究している。
主な作品等
(単著)「カール・クラウスと危機のオーストリア―世紀末・世界大戦・ファシズム」、(共著)「民主主義は甦るのか?―歴史から考えるポピュリズム」

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京都文化財団主任 林 淳(はやし じゅん)
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「いびつな「書の美」 日本の書がたどった二つの近代化」の成果
日本の近現代書道史は20世紀半ばに脚光を浴びた前衛書の活動を中心に語られてきた。「いびつな「書の美」 日本の書がたどった二つの近代化」は、こうした「革新派」の影に隠れた「伝統派」にも光を当て、従前のいびつな構造を浮かび上がらせる。双方の制作理念を対比しながら、両派の美学を総合的に俯瞰することで新たな歴史認識を打ち出したのは大きな功績である。しかも、書に関する著者独自の評価軸を示すなど、意欲的な姿勢を見せている。文部科学大臣新人賞にふさわしい力作と言えよう。
略歴
昭和54年岐阜県生まれ。京都大学文学部卒業、広島大学大学院総合科学研究科修了。博士(学術)。近現代日本の書を専門とし、全国の石碑調査も行った(~平成30年)。国立民族学博物館や京都国立博物館等で事務官として約10年勤めた後、勝山城博物館とあわら市郷土歴史資料館でこちらも約10年学芸員として主に歴史系の展覧会を開催。令和5年から京都文化財団に移り、京都府立府民ホールの総務・事業部門で主任を務める。京都芸術大学非常勤講師、瑞雲書道会学術顧問。大学以降、能楽囃子(主に太鼓)の稽古を継続中。
主な作品等
(単著)「近世・近代の著名書家による石碑集成-日下部鳴鶴・巌谷一六・金井金洞ら28名1700基-」「天爵大神福井をゆく」、(展覧会企画)「福井の偉人書家西脇呉石~研ぎ澄まされた心と線~」「金津奉行と江戸時代の金津」ほか、(出演)厳島神社桃花祭御神能太鼓方ほか