令和5年度受賞者紹介

芸術選奨文部科学大臣賞

演劇部門

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歌舞伎俳優 片岡 愛之助(かたおか あいのすけ)
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「夏祭浪花鑑」令和5年6月博多座
(団七九郎兵衛)
©松竹株式会社
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「弁天娘女男白浪」令和5年1月歌舞伎座
(弁天小僧菊之助)
©松竹株式会社
「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」ほかの成果
大阪生まれ、大阪育ちの生粋の上方役者として貴重な存在。令和5年は当たり役「夏祭浪花鑑」の団七九郎兵衛(だんしちくろべえ)を毛穴の一つ一つから大坂の匂いが噴き出すように演じ、市井の片隅で必死に男を磨いて生きる男の切なさにまで踏み込む演技を見せた。「廓文章(くるわぶんしょう)」の伊左衛門(いざえもん)では上方和事の最高峰の役どころを絶妙のやわらかみとおかしみで体現。「三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)」のお坊吉三(きちさ)、「弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)」の弁天小僧菊之助などの江戸歌舞伎、さらには新作歌舞伎まで幅広く、現代の歌舞伎界を牽引(けんいん)する一人と言える。
略歴
昭和47年大阪府生まれ。同56年12月に十三世片岡仁左衛門の部屋子となり、片岡千代丸を名のり初舞台。平成4年1月に二世片岡秀太郎の養子となり、六代目片岡愛之助を襲名。同20年、上方舞・楳茂都流の四代目家元を継承し、三代目楳茂都扇性を襲名。近年は「女殺油地獄」河内屋与兵衛、「廓文章」藤屋伊左衛門といった上方の大役を多く勤めるとともに、「東海道四谷怪談」民谷伊右衛門、「弁天娘女男白浪」弁天小僧菊之助など江戸の芝居にも果敢に取り組む。新作にも積極的で、永楽館歌舞伎やシスティーナ歌舞伎から生まれた作品も「GOEMON 石川五右衛門」をはじめ多数。令和5年は新橋演舞場にて「流白浪燦星」(ルパン三世)の主演・流白浪燦星役も演じている。
主な作品等
「夏祭浪花鑑」団七九郎兵衛、「女殺油地獄」河内屋与兵衛、「東海道四谷怪談」民谷伊右衛門、「弁天娘女男白浪」弁天小僧菊之助、「義賢最期」木曽義賢、「廓文章」藤屋伊左衛門、「鯉つかみ」滝窓志賀之助、「GOEMON 石川五右衛門」石川五右衛門、「流白浪燦星」流白浪燦星

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俳優 山西 惇(やまにし あつし)
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「エンジェルス・イン・アメリカ」
撮影:宮川舞子
提供:新国立劇場
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「闇に咲く花」
「エンジェルス・イン・アメリカ」ほかの成果
演じる人物の幅の広さに目を見張る。令和5年、「エンジェルス・イン・アメリカ」では頑として同性愛者だと認めない憎々しい大物弁護士を、豪放磊落(ごうほうらいらく)な頑固者と子供のような無邪気さ、その両面を合わせ持つ独特な人物像に説得力を持って仕立ててみせた。また「闇に咲く花」では一転して繊細で内気な神主を緻密につくりこんで観客の共感をさらった。円熟味が増す近年、今後も唯一無二の人物像を数多く観客に届けてくれるだろう。
略歴
昭和37年京都市生まれ。京都大学在学中に劇団「そとばこまち」で活躍。卒業後は石油化学系の会社に勤務しながら劇団活動を続ける。3年8ヶ月で俳優1本に。退団後は舞台や映像で幅広く活躍。「相棒」(テレビ朝日)は平成13年放送のプレシーズン2から現在放送中のシーズン22まで、警視庁組織犯罪対策部薬物銃器対策課長・角田六郎役で出演。令和2年第27回読売演劇大賞優秀男優賞、同6年第31回最優秀男優賞受賞。
主な作品等
(舞台)「生きる」「世界は笑う」「イーハトーボの劇列車」「木の上の軍隊」「日本人のへそ」「雨」ほか、(映像)「相棒」シリーズ「まんぷく」「真田丸」「半沢直樹」「Dr.コトー診療所」ほか

映画部門

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映画監督 岩井 俊二(いわい しゅんじ)
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©2023 Kyrie Film Band
「キリエのうた」の成果
ギリシャ語で「主よ」を意味するキリエ。「キリエのうた」とは、「キリエ・エレイソン(主よ、憐(あわれ)みたまえ)」を繰り返すミサ曲のこと。ここでは名前を捨てた二人の女性と、この困難な世を生きる人々へ贈る讃歌(さんか)でもある。震災によって、貧困によって、全てを失った二人が、自身の力と揺るぎない友情によって未来を切り開こうとする。それを音楽で紡ぐ。岩井俊二氏の映画は、作中の音楽同様、大量消費を目的とせず、必要とする人のために作られる。支持する層は広く、口伝えで国内外に広がっている。
略歴
昭和38年宮城県生まれ。同63年より多方面の映像世界で活動を続け、その独特な映像は“岩井美学”と称され注目を浴びる。平成7年に「Love Letter」で長編映画監督デビュー。「ニューヨーク,アイラブユー」「ヴァンパイア」で活動を海外にも広げる。「花とアリス殺人事件」では長編アニメ作品に挑戦、 国内外で高い評価を得る。東日本大震災の復興支援ソング「花は咲く」では作詞を手がける。国内外を問わず、多彩なジャンルでボーダーレスに活動し続けている。
主な作品等
(映画)「Love Letter」「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」「花とアリス」「ヴァンパイア」「リップヴァンウィンクルの花嫁」「ラストレター」、(小説)「ウォーレスの人魚」「番犬は庭を守る」「零の晩夏」、(作詞)「花は咲く」

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俳優 佐藤 浩市(さとう こういち)
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「春に散る」
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「愛にイナズマ」
©2023「愛にイナズマ」製作委員会
「春に散る」「愛にイナズマ」ほかの成果
「春に散る」では主役の一人として、元ボクサーを目つきも体の動きも鋭く説得力を持って演じ、脇に回った「愛にイナズマ」では一転、一見頼りないが芯のある父親をコミカルに見せた。青春時代劇「せかいのおきく」では、重しとして若者たちを支える。佐藤浩市氏は年齢を重ねるごとに奥行きと深みを増し、役の剛柔、大小を問わずしなやかに演じてスクリーンに存在し続ける。後進に心を配る姿勢も含め、円熟という言葉がふさわしい。
略歴
昭和35年東京都生まれ。同55年に「続・続事件」(NHK)でデビュー。「青春の門」(同56年)でブルーリボン賞新人賞、「せかいのおきく」「愛にイナズマ」(令和5年)などで同賞助演男優賞、「忠臣蔵外伝 四谷怪談」(平成6年)、「64-ロクヨン- 前編」(同28年)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、「ホワイトアウト」(同12年)「壬生義士伝」(同15年)で同賞最優秀助演男優賞、「雪に願うこと」(同18年)で毎日映画コンクール男優助演賞を受賞。
主な作品等
「魚影の群れ」「トカレフ」「あ、春」「ザ・マジックアワー」「最後の忠臣蔵」「愛を積むひと」「Fukushima50」「20歳のソウル」

音楽部門

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©ayumi kakamu
指揮者・作曲家 杉山 洋一(すぎやま よういち)
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湯浅譲二 作曲家のポートレート
-アンテグラルから軌跡へ-
2023年8月25日(金)
サントリーホール 大ホール
撮影:飯田耕治
提供:サントリーホール
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篠﨑功子と仲間たち
〜コンチェルト・アフタヌーン〜
2023年7月16日(日)
紀尾井ホール
撮影:平舘平
提供:東京コンサーツ
「湯浅譲二 作曲家のポートレート」ほかの成果
杉山洋一氏は、令和5年、本拠の欧州はもとより、我が国においても極めて充実した活動を行った。作曲界の巨匠、湯浅譲二の「作曲家のポートレート」と題された演奏会では、東京都交響楽団の指揮台に立ち、新作「オーケストラの軌跡」初演のほか、彼の1970年代半ばの傑作に新たな光を当て、さらに20世紀の古典を鮮やかに現代に甦(よみがえ)らせた。加えて、NHK交響楽団の公演で余人をもって代え難い存在であることを改めて印象付け、また、自作「ヴァイオリン協奏曲「ラ・フォリア」」の初演でも、豊かな才能を遺憾なく発揮した。
略歴
昭和44年東京都生まれ。桐朋学園大学作曲科卒業。国内外で数々の舞台や演奏会の企画に携わり、うち多くの上演で指揮も務める。同時代音楽界での幅広い活動が認められ、平成30年芸術選奨音楽部門文部科学大臣新人賞受賞。作曲家として第13回佐治敬三賞、第2回一柳慧コンテンポラリー賞受賞。指揮者として第22回(令和5年度)齋藤秀雄メモリアル基金賞受賞。平成22年サンマリノ共和国より聖アガタ騎士勲章受勲。同7年にイタリア政府から作曲奨学金を得て以来ミラノ在住。現在、ミラノ市立クラウディオ・アバド音楽院で教鞭をとる。
主な作品等
(企画、指揮)高橋悠治作品演奏会I「歌垣」、同II「般若波羅蜜多」、同III「フォノジェーヌ」、神奈川県民ホール開館50周年記念オペラ「ローエングリン」(シャリーノ作曲)、(作曲)「自画像」(オーケストラ)、「アフリカからの最後のインタビュー」(五重奏)、「子供の情景」(ヴィオラ四重奏)

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撮影:大窪道治
邦楽囃子笛方 福原 徹(ふくはら とおる)
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徹の笛 第13回福原徹演奏会
「さあらば鈴を参らせう」
撮影:長田彰
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徹の笛 第13回福原徹演奏会
「薪荷雪間の市川 山廻り」
撮影:長田彰
「福原徹演奏会 徹の笛」ほかの成果
篠笛(しのぶえ)の澄み渡った音色と能管の力強い表出力を駆使し、長唄や浄瑠璃を彩る邦楽囃子(ほうがくばやし)の笛。これに加えて福原徹氏は、独奏曲や笛中心の合奏曲の創作と発信を通じて、ともすれば脇役的立場に置かれがちな笛の世界を拡(ひろ)げてきた。近年は箏曲(そうきょく)との合奏においても、尺八や胡弓(こきゅう)に代わる新たな笛の手付(てつけ)によって楽曲に清新な陰影を与えることに成功している。「第13回福原徹演奏会 徹の笛」をはじめとする2023年の公演は、こうした多彩な活動の成果が集約的に示される場となった。
略歴
昭和36年東京都生まれ。六世福原百之助(四世寶山左衞門)に入門、福原徹の名を許される。東京藝術大学音楽学部邦楽科卒業後、邦楽囃子笛方として篠笛・能管の古典演奏活動を続ける。また、笛を中心とした作曲に取り組む。平成13年「第一回福原徹演奏会 徹の笛」を開催、文化庁芸術祭大賞を受賞。東京藝術大学、洗足学園音楽大学などの非常勤講師を歴任。中学校音楽教科書「中学器楽 音楽のおくりもの」著者。一般社団法人長唄協会会員。創邦21同人。
主な作品等
(作曲)「うた」「千の太陽、万の扉」「国境を越えて」「キリエ」「Dona nobis pacem」「トキ」「千年の桜」「草の祈り」「ハムレット」「リチャード三世の独白」「みち」「さあらば鈴を参らせう」「五調七管」ほか、(CD)「徹」「徹の笛」「lift off」

舞踊部門

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©A.I Co.,Ltd.
振付家 鈴木 稔(すずき みのる)
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バレエ「ドラゴンクエスト」
©Hasegawa Photo Pro.
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「くるみ割り人形」
©Hasegawa Photo Pro.
バレエ「ドラゴンクエスト」ほかの成果
鈴木稔氏は、スターダンサーズ・バレエ団の常任振付家を長く務め、これまで着実に実績を積み重ねて日本のバレエ界を支えてきた。中でも令和5年に再演されたバレエ「ドラゴンクエスト」では、ゲームとバレエを融合させた世界観を見事に舞台化し、バレエという芸術の可能性を押し広げた。古典作品をオリジナルの物語で作り直した「くるみ割り人形」も、氏の演出・振付の創意が光る魅力的なバレエ作品である。令和5年はコンテンポラリーダンス作品「MISSING LINK」でも、独創的な振付語彙で変化に富んだ構成を実現し、優れた成果を上げた。
略歴
昭和33年東京都生まれ。同58年に渡米し、ニューヨークのチェンバー・バレエ、コロラド・バレエで公演に参加。平成5年スターダンサーズ・バレエ団バレエマスターに就任、その後常任振付家として多くの作品の演出・振付を手がけている。同11年文化庁在外研修員としてフランクフルト・バレエにて研鑚を積む。同14年にはドイツのハイルブロン市立劇場に招聘され「MISSING LINK」を上演し、成功を収める。振付家としての活動が評価され、これまでに日本バレエ協会振付奨励賞、音楽舞踊新聞村松賞、芸術選奨文部大臣新人賞、橘秋子賞特別賞を受賞している。
主な作品等
「アンノウン・シンフォニー」「DANCE CROQUIS」「Degi Meta go-go」「シンデレラ」「くるみ割り人形」「迷子の青虫さん」、NHKニューイヤーオペラ、日本フィル夏休みコンサート、藤原歌劇団オペラ公演などのバレエシーン、上海大劇院の杮落し公演「鵲の橋」ほか

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日本舞踊家 吉村 古ゆう(よしむら こゆう)
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「こうの鳥」
提供:国立文楽劇場
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「善知鳥」
提供:石川県立音楽堂
「こうの鳥」「善知鳥(うとう)」ほかの成果
「こうの鳥」の主役・母鳥を研ぎ澄ました舞で表現した。父鳥との情、抱卵の静かな愛、タカと戦う激しい母性、悲劇的な死と、傑出した力量を示した。吉村流4世家元、吉村雄輝作舞・演出・主演の初演から64年ぶりの復活。意義は大きい。「善知鳥」は、地獄に堕(お)ち救済を願う猟師の霊を、しなやかで流麗な舞で表現。雄輝初演の型も伝えた。「日本舞踊キャラバン京都公演」で「雪」を着流しで舞ったのも充分な実力を示した。
略歴
昭和61年吉村流四世家元・吉村雄輝(人間国宝)に内弟子として入門、師の亡くなるまでの13年間を最後の内弟子として修業を積む。師の教えは古格な流儀の舞に加えて武智歌舞伎での精神性や肉体表現の大事さ、また新派の花柳章太郎による女方の心得などの師が体得した事を生活の中で教授された。「守破離」の言葉どおり若い時は吉村流の舞を一筋に、中年になり他流派の舞踊家との共演が多くなり、後は「離」に向けて吉村流の舞の真髄を探求中。平成19年芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。ソウル国際舞踊コンクール審査員を歴任。京都市在住。
主な作品等
「雪」「古道成寺」「座敷舞道成寺」「小袖物狂」「名護屋帯」ほか

文学部門

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撮影:露木聡子
小説家 柴崎 友香(しばさき ともか)
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「続きと始まり」の成果
柴崎友香氏の「続きと始まり」は、無関係な3人の男女の、2020年3月からの2年間を、個別に描く長編。未知の病原体の出現で「日常」を奪われた彼らは、経験した震災や映像で知る事件の記憶を引きずりながら、日々を過ごす。だが感じたことは、時の経過とともに少しずつ失われているのだ。静謐(せいひつ)な文体で、社会の光景と、個人の渾然(こんぜん)とした内部を、地道に確実に捉えていく。現代小説の新領域を開く、優れた作品である。
略歴
昭和48年大阪府生まれ。平成12年に刊行した「きょうのできごと」が同16年に行定勲監督により映画化。同19年「その街の今は」が第23回織田作之助賞大賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞、第24回咲くやこの花賞文芸その他部門受賞。同22年「寝ても覚めても」が第32回野間文芸新人賞受賞(同30年に濱口竜介監督により映画化)。同26年「春の庭」が第151回芥川賞受賞。同28年、アメリカ・アイオワ大学主催のInternational Writing Program(IWP)に参加。場所に積み重なる時間や記憶、人の関係を描き、写真や映画、建築等の分野にも関わっている。
主な作品等
「わたしがいなかった街で」「パノララ」「千の扉」「公園へ行かないか?火曜日に」「かわうそ堀怪談見習い」「待ち遠しい」「百年と一日」、エッセイ「大阪」(共著)ほか

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小説家 乗代 雄介(のりしろ ゆうすけ)
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「それは誠」の成果
乗代雄介氏の「それは誠」は、高校生たちが修学旅行の自由行動に割り当てられた時間でささやかな冒険をするという、友情を基礎にしたストレートな青春小説であると同時に、孤独感を覚えながら生きることを肯定しようとする意志に貫かれた小説である。語り手の「誠」という名前が示唆するように、小説が言葉で成り立っているという意識も明らかで、ところどころにハッとするような言葉や胸を打つ言葉が見いだせる。小説の面白さを知ってもらうためにも、是非多くの若い読者に読んでもらいたい作品であり、高く評価したい。
略歴
昭和61年北海道生まれ。法政大学社会学部メディア社会学科卒業。塾講師として勤務していた平成27年に「十七八より」で第58回群像新人文学賞を受賞してデビュー。同30年「本物の読書家」で第40回野間文芸新人賞、令和3年「旅する練習」で第34回三島由紀夫賞、同作で同4年第37回坪田譲治文学賞、同6年「それは誠」で第40回織田作之助賞を受賞。
主な作品等
「十七八より」「本物の読書家」「最高の任務」「ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ」「旅する練習」「皆のあらばしり」「掠れうる星たちの実験」「パパイヤ・ママイヤ」

美術A部門

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撮影:Adrian Gaut
提供:蔡スタジオ
現代美術家 蔡 國強(さい こっきょう)
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白天花火《満天の桜が咲く日》、
2023年6月26日福島県いわき市、四倉海岸。
撮影:33 Studio
提供:蔡スタジオ
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「蔡國強 宇宙遊 ―〈原初火球〉から始まる」展、
国立新美術館での展示風景。
撮影:顧劍亨
提供:蔡スタジオ
「蔡國強 宇宙遊(うちゅうゆう) ―〈原初火球(げんしょかきゅう)〉から始まる」展の成果
国際的に高く評価されている蔡國強氏は、火薬で屏風(びょうぶ)に描いた作品を発表した1991年の個展「原初火球」展を、その後に展開する各プロジェクトの重要な出発点と位置付けている。本展では、この30年前の作品から近年のネオンを使用したキネティック・ライト・インスタレーションまでを同一会場内に展示し、自身の活動の軌跡と未来への展望を示した。特集展示「蔡國強といわき」は、作家としての形成期を過ごした日本への想いを伝えている。
略歴
昭和32年中国福建省・泉州市生まれ。同61年末から約9年間を日本で過ごし、火薬の爆発による独自の絵画を開拓して一躍注目を集め、数十年にわたって世界中で一連の爆発プロジェクトを実現してきた。絵画、インスタレーション、映像、パフォーマンス‧アートなどさまざまな媒体で制作し、バーチャルリアリティ(VR)、拡張現実(AR)、NFT、ブロックチェーン、人工知能(AI)といった新しいテクノロジーも利用して制作している。平成7年から現在までニューヨークを拠点に活動している。同11年第48回ヴェネチア・ビエンナーレ「国際金獅子賞」、同19年第7回「ヒロシマ賞」、同21年第20回「福岡アジア文化賞」、同24年第24回「高松宮殿下記念世界文化賞」(絵画部門)、「米国国務院芸術勲章」受賞。
主な作品等
「ヘッド・オン」「歴史の足跡:北京オリンピック開会式のための花火」「スカイラダー」

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Photo by Masayuki Hayashi 林雅之
テキスタイル・デザイナー 須藤 玲子(すどう れいこ)
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Photo by Masayuki Hayashi 林雅之
「須藤玲子:NUNOの布づくり」展ほかの成果
布は本来、何かを纏(まと)うために作られた素材(支持体)であるが、須藤玲子氏の「布」はそれ自体が綿密に構築された立体造形である。氏は、氏を支えるチームNUNOや各地の工房、職人と共に実験を繰り返し、布そのものを主役に表現の可能性を探る。2.5mの巨大な鯉(こい)のぼりを大量に中空に泳がせる一方で、小さな布片をびっしりと並べて体感させる。2019年香港のCHATに始まった個展の欧州凱旋(がいせん)帰国展となる当概展は、日常のささいな発想から生じる過程を、素材、道具、素描、映像、音と布で会場構成した。テキスタイルが、新旧の技術や感性の融合であると同時に人々の生活を護(まも)るサスティナブルな社会性の象徴となり得ることを示した。
略歴
昭和28年茨城県生まれ。株式会社 布代表。東京造形大学名誉教授。平成20年より良品計画、山形県鶴岡織物工業協同組合、株式会社アズ他のテキスタイルデザインアドバイスを手掛ける。同28年より株式会社良品計画アドバイザリーボード。円空大賞、毎日デザイン賞、ロスコー賞等受賞。日本の伝統的な染織技術から現代の先端技術を駆使し、新しい布づくりをおこなう。作品はニューヨーク近代美術館、メトロポリタン美術館、ボストン美術館、ビクトリア&アルバート博物館、ロサンゼルス州立美術館、東京国立近代美術館ほかに永久保存されている。
主な作品等
(NUNOデザインのテキスタイルによるインスタレーション)「こいのぼり:Koi Current」(共同制作)、「Do You Nuno?」、「扇の舞: Japanese Fanfare」(共同制作)ほか

美術B部門

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撮影:伊波リンダ
写真家 石川 真生(いしかわ まお)
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提供:東京オペラシティアートギャラリー
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提供:東京オペラシティアートギャラリー
「石川真生 私に何ができるか」の成果
戦後、アメリカ統治下の沖縄に生まれた石川真生氏は、1970年代から半世紀にわたり、土地と生そのものを沖縄で生きる人間として撮り続けている。人々の生き様が圧倒的な写真の力で生々しく集積された作品群は、国内のみならず国際的にも高い評価を受けている。2023年には、東京では初となる初期代表作から最新作まで一堂に会する大規模個展「石川真生 私に何ができるか」が開催された。2014年からは、琉球(りゅうきゅう)国時代から現代までの歴史を紡ぎながら、住民たちとつくりあげる創作写真とも呼ばれる大作のシリーズ「大琉球写真絵巻」に取り組み、闘病の中にあっても写真家として「私に何ができるか」を実践し続けている。
略歴
昭和28年沖縄県生まれ。同49年ワークショップ写真学校「東松照明教室」入学。平成15年、企画展「KEEP IN TOUCH: POSITIONS IN JAPANESE PHOTOGRAPHY」(グラーツ市美術館)/オーストリア)。同16年、企画展「ノンセクト・ラディカル 現代の写真Ⅲ」(横浜美術館/神奈川県)、企画展「永続する瞬間-沖縄と韓国 内なる光景」(P.S.1コンテンポラリーアートセンター〈MoMA提携館〉/ニューヨーク)。同20年、「沖縄・プリズム1872-2008」(東京国立近代美術館)。同23年 「FENCES, OKINAWA」 さがみはら写真賞受賞。令和元年日本写真協会賞 作家賞受賞。同3年「石川真生展:醜くも美しい人の一生、私は人間が好きだ。」(沖縄県立博物館・美術館)。
主な作品等
「金武の女たち」「熱き日々 in キャンプハンセン!!」「LIFE IN PHILLY」「フィリピン」「港町エレジー」「沖縄芝居・仲田幸子一行物語」「沖縄の自衛隊」「沖縄の米軍」「沖縄海上ヘリ基地」「日の丸を視る目」、大琉球写真絵巻パート1〜10(同26年~令和5年)

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Photo: Yoshiro Masuda
建築家・早稲田大学教授 宮本 佳明(みやもと かつひろ)
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「入るかな?はみ出ちゃった。~宮本佳明 建築団地」
展示風景、宝塚市立文化芸術センター(2023)
Photo: Yoshiro Masuda
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澄心寺庫裏(2009年竣工、長野県上伊那郡箕輪町)
Photo: Takumi Ota
「入るかな?はみ出ちゃった。~宮本佳明 建築団地」の成果
宝塚市立文化芸術センターでの「入るかな?はみ出ちゃった。〜宮本佳明 建築団地」は、宮本佳明氏が設計してきた建築作品群のそれぞれ一部分を実寸大模型で紹介する企画展であった。「震災の記憶」をとどめる「ゼンカイ」ハウスでも知られる氏の「建築とは記憶の器である」という考えは、従来の建築展を大胆かつ創造的に逸脱する手法によって、広く一般の観客に届く魅力を獲得した。建築家としての思想と矜持(きょうじ)を柔軟にひらいてみせた姿勢は、説得力を持って評価された。
略歴
昭和36年兵庫県生まれ。同59年東京大学工学部建築学科卒業。同62年同大学院修士課程修了。博士(工学)。同63年アトリエ第5建築界設立、平成14年宮本佳明建築設計事務所に改組。大阪芸術大学助教授、大阪市立大学大学院教授などを経て、現在早稲田大学教授。同8年第6回ヴェネチアビエンナーレ建築展金獅子賞。同10年「「ゼンカイ」ハウス」でJCDデザイン賞ジャン・ヌーベル賞、日本建築家協会新人賞。同19年「クローバーハウス」で日本建築家協会賞。同24年「澄心寺庫裏」で日本建築学会作品選奨。
主な作品等
(建築)「「ゼンカイ」ハウス」「SHIP」「クローバーハウス」「「ハンカイ」ハウス」「bird house」「澄心寺庫裏」「真福寺客殿」「常泉寺新位牌堂」、(著書)「環境ノイズを読み、風景をつくる」「Katsuhiro Miyamoto(Libria)」「Katsuhiro MIYAMOTO & Associates(Nemofactory)」

メディア芸術部門

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漫画家・アニメーション監督 井上 雄彦(いのうえ たけひこ)
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©I.T.PLANNING, INC.
©2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners
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©I.T.PLANNING, INC.
©2021 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners
「THE FIRST SLAM DUNK」ほかの成果
「THE FIRST SLAM DUNK」は映像化されていなかった原作のクライマックスを、原作者の井上雄彦氏自らが監督して映画化した。映画の大半は3DCGが用いられたが、氏自身が大量の絵を描き下ろし指示を出すことで、氏のビジョンが見事に映像として定着された。これはまごう方なき“アニメーション映画監督”の仕事である。国内外での大ヒットも、この仕事あっての達成と言える。また本作で新たに描かれた家族のドラマは、原作連載時から現在に至る間における、氏の作家的な深まりを感じさせるものでもあった。
略歴
昭和42年鹿児島県生まれ。同63年「楓パープル」でデビュー、手塚賞を受賞。代表作に漫画「スラムダンク」、連載中の「リアル」、「バガボンド」がある。美術館全体を使った「井上雄彦 最後のマンガ展」で平成21年芸術選奨メディア芸術部門文部科学大臣新人賞を受賞。自身で原作・脚本・監督をつとめた映画「THE FIRST SLAM DUNK」は日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞などを受賞。
主な作品等
「SLAM DUNK」「バガボンド」「リアル」ほか

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©田村由美/小学館
漫画家 田村 由美(たむら ゆみ)
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©田村由美/小学館
漫画「ミステリと言う勿(なか)れ」ほかの成果
少女漫画界で長期にわたり第一線を走り続ける田村由美氏。文明崩壊後の日本を描く冒険譚(ぼうけんだん)「BASARA」や、SFサバイバル「7SEEDS」、そして2022~2023年、ドラマ・映画化もされ大ヒットした「ミステリと言う勿れ」などジャンルを問わず幾つもの名作を生み出してファンを虜(とりこ)にしてきた、日本の漫画界を代表する作家である。魅力あふれるキャラクターが繰り広げる重厚かつ壮大なストーリーを次々と生み出してきた氏は、2023年でデビュー40周年を迎えた。40年もの長期にわたって第一線で活躍し、常に新境地を開拓していくその手腕と功績に芸術選奨をもって敬意を表したい。
略歴
和歌山県生まれ。昭和58年に「オレたちの絶対時間」(「別冊少女コミック 9月号増刊」)でデビュー。「BASARA」で第38回、「7SEEDS」で第52回、「ミステリと言う勿れ」で第67回小学館漫画賞、平成25年和歌山県文化功労賞受賞。現在、「月刊flowers」で「ミステリと言う勿れ」を、「増刊flowers」で「猫mix幻奇譚 とらじ」を連載中。著作の数々がアニメ化、舞台化、ドラマ化、映画化など幅広くメディア化されている。
主な作品等
「巴がゆく!」「BASARA」「7SEEDS」「猫mix幻奇譚とらじ」ほか

放送部門

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脚本家 野木 亜紀子(のぎ あきこ)
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「フェンス」の成果
野木亜紀子氏が脚本を手がけた「フェンス」は、沖縄をめぐる諸問題を徹底的な取材を基に真正面から描いた勇気あるドラマである。タイトルは米軍基地を囲むフェンスを指し、日米地位協定による基地への不可侵性を意味する。しかし、それだけではなく、本土と沖縄、男と女、親と子、肌の色など様々なところに不可視のフェンスが存在することを鋭く描き出した点に本作の真髄がある。私たち自身も無自覚的に創り出しているフェンスにいかに気付き、二元論を超えてゆくかを真摯に問う、稀有(けう)な脚本である。
略歴
昭和49年東京都生まれ。日本映画学校卒業。ドキュメンタリーの制作に8年ほど携わった後、派遣社員として働きフジテレビヤングシナリオ大賞に応募を続け、平成22年に大賞を受賞し脚本家デビュー。同30年放送の「アンナチュラル」で市川森一脚本賞ほかを受賞、同年放送「獣になれない私たち」で向田邦子賞、令和3年に映画「罪の声(塩田武士原作)」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。
主な作品等
(脚色)テレビドラマ「空飛ぶ広報室」「重版出来!」「逃げるは恥だが役に立つ」、映画「アイアムアヒーロー」「罪の声」「カラオケ行こ!」ほか、(オリジナル)テレビドラマ「アンナチュラル」「フェイクニュース」「獣になれない私たち」「コタキ兄弟と四苦八苦」「MIU404」ほか

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プロデューサー 山﨑 裕侍(やまざき ゆうじ)
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「閉じ込められた女性たち」制作スタッフ
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映画「ヤジと民主主義 劇場拡大版」での舞台挨拶
「閉じ込められた女性たち~孤立出産とグレーゾーン~」ほかの成果
「閉じ込められた女性たち~孤立出産とグレーゾーン~」は、「望まない出産」に追い込まれた一人の女性を、胎児殺害の刑事被告人としてでなく、不寛容な社会で行き場を失った弱者として描いた。山﨑裕侍氏は、主人公と同世代の女性記者をディレクターに配し、その共感の眼差(まなざし)を作品に反映させた。氏の取材の原点は「権力の監視」である。過去の作品においても「民主主義の危機」や「核のゴミ」など、この国に山積する「歪(ゆが)み」に果敢に切り込み、強い説得力で視聴者に発信し続けた。
略歴
昭和46年北海道生まれ。在学中の平成3年湾岸戦争による難民キャンプでのボランティアや中国の少数民族と共同生活を行う。同6年東京の制作会社入社。同10年からテレビ朝日に出向し「ニュースステーション」「報道ステーション」ディレクターとして犯罪被害者や死刑制度を取材。同18年HBC中途入社。警察・政治キャップを経て同31年統括編集長。現在は企画デスクをしながら取材を続ける。同22年日本民間放送連盟賞、第50回ギャラクシー賞、第63回日本ジャーナリスト会議JCJ賞、第40回地方の時代映像祭賞、第76回文化庁芸術祭賞、第49回放送文化基金賞など受賞。
主な作品等
「命をつなぐ~臓器移植法10年・救急医療の現場から~」「赤ひげよ、さらば。~地域医療“再生”と“崩壊”の現場から~」「クマと民主主義~記者が見つめた村の1年10か月~」「ネアンデルタール人は核の夢を見るか~“核のごみ”と科学と民主主義~」、映画「ヤジと民主主義 劇場拡大版」

大衆芸能部門

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撮影:森 松夫
講談師 宝井 琴調(たからい きんちょう)
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撮影:森 松夫
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撮影:森 松夫
国立名人会「名月若松城」ほかの成果
軍談や世話物など講談の多彩を縦横無尽に読み込む話芸は定評が高く、中でも兄弟の情、主従の情の描き方は抜きん出ている。名将伝である「名月若松城」では、主従の相聞や意地を持ち前の柔らかい話芸で伝えた。高座の一方、令和5年は講談協会の会長に就任し、新たな講釈場の獲得や後進の育成にも尽力。講談の旗を守り続ける最前列に立つ。落語協会にも所属し、落語の老舗定席・鈴本演芸場では夏冬にトリを務めるほど重宝されている。話芸と指導性、その両方を高く評価できる。
略歴
昭和30年熊本県生まれ。同49年2月五代目宝井馬琴に入門。前座名「琴僚」。同55年6月二ツ目、同60年4月真打ち昇進。琴童と改名。同62年1月四代目琴調襲名。平成20年落語協会入会。同22年より上野・鈴本演芸場師走下席夜主任をつとめる。令和4年落語協会理事に就任。同5年4月講談協会会長就任。
主な作品等
「寛永三馬術」「大岡政談」「赤穂義士伝」「名将伝」「俠客伝」「名工伝」ほか、(小説等の講談化)樋口一葉「大つごもり」、重松清「卒業ホームラン」、R.Lスティーブンソン・萩野さち子原案「小瓶の悪魔」、高田郁「車窓家族」、中村尚樹「最重度の障害児たちが語りはじめる時」ほか

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歌手 藤井 フミヤ(ふじい ふみや)
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「40th Anniversary Tour 2023-2024」ほかの成果
昭和58年、チェッカーズのリードシンガーとしてデビュー。「ギザギザハートの子守唄」「涙のリクエスト」など多数のヒットを放ち、ファッション面も含め社会現象を巻き起こした。解散後はソロ活動へ。平成5年のシングル「TRUE LOVE」は200万枚超の大ヒットを記録している。さらに音楽と並行してアート作品を発表したり建築関係のプロデュースを手掛けたり、幅広く活動中。令和5年からはデビュー40周年を記念した「40th Anniversary Tour 2023-2024」で全国47都道府県60公演を展開し、変わらぬ勢いを印象付けた。
略歴
昭和37年福岡県生まれ。昭和58年、チェッカーズのボーカルとしてデビュー。10年間のバンド活動を経て、平成5年にシングル「TRUE LOVE」でソロデビュー。以降、「Another Orion」ほか楽曲リリース、全国ツアー、楽曲提供などの音楽活動を行う。令和5年にはデビュー40周年を迎えた。ソロ活動のほか、弟である藤井尚之とのユニット「F-BLOOD」の活動や、「FUMIYART」と題したアート作品の制作・個展も不定期に行っている。
主な作品等
(楽曲)「TRUE LOVE」「Another Orion」「DO NOT」「Go the Distance」ほか、(楽曲提供)猿岩石「白い雲のように」、第62回神宮式年遷宮奉賛曲「鎮守の里」ほか、(プロデュース)「愛・地球博」名古屋市パビリオン「大地の塔」ほか

芸術振興部門

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撮影:直井保彦
民間文化施設「犀の角」代表・舞台芸術プロデューサー・制作者 荒井 洋文(あらい ひろふみ)
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「のきした・オープンデイ/かさじぞうパレード」
2022年2月12日
撮影:直井保彦
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「シンポジウム 「のきした首脳会議〜場/のき/表現/アートとその担い手をめぐる冒険」
2023年9月10日
撮影:安徳希仁
文化施設「犀(さい)の角(つの)」における活動の成果
荒井洋文氏が平成28年にオープンした民間の文化施設「犀の角」は上演、地域演劇支援、上田街中演劇祭などを実施するほか、地域NPO法人や映画館、市民、行政などと協力し「のきした」と名付けた緩やかな連帯を築いている。氏は、地域の人々に寄り添う独自の事業を推し進め、令和5年は、さらに、インド・ケーララ州にある劇場との共同創作や、様々な分野で表現に携わる35歳以下の若者を対象とした短期研修プログラム「表現/社会/わたしをめぐる冒険」を開催し、従来の劇場の役割を超えた「未来の劇場」の可能性を示唆する活動を展開した。
略歴
昭和46年長野県生まれ。静岡県舞台芸術センター制作部に所属後、上田市で文化事業集団「シアター&アーツうえだ」を発足。演劇を軸とした文化芸術活動のプロデュース等を行っている。平成28年、上田市中心商店街の空き店舗をリノベーションし、演劇やライブ等で使用できる劇場とゲストハウスを備えた民営文化施設「犀の角」をオープン。様々な表現活動や地域住民・アーティストの交流の場として運営している。一般社団法人シアター&アーツうえだ代表理事。合同会社犀の角代表社員。上田市交流文化芸術センター運営協議会委員。
主な作品等
(地域との協働活動)雨風しのげる女性のための宿「やどかりハウス」、「のきしたおふるまい/むすびの日」、(プロデュース作品)「一坪半劇場」「第六感劇場・つつじ忌」「Before the Dawn 第二部〜島崎藤村「夜明け前」を巡る旅〜」

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©Isabel Munoz
KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 共同創設者・共同代表
ルシール・レイボズ仲西 祐介(なかにし ゆうすけ)
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KYOTOGRAPHIE 2022
©Takeshi Asano
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KYOTOPHONIE 2023
©Naoyuki Ogino
「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」ほかの成果
東日本大震災後に東京から京都に居を移し、わずか2年で「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」を創設。国内外から多数の写真家を招聘(しょうへい)し、10年の間に世界有数の写真祭に育て上げた。2023年には、音楽フェスティバル「KYOTOPHONIE」も開催。二人の関わりが深いフランス、アフリカ諸国、ブラジルなどの表現者を日本に紹介したことは、特に意義深い。活動拠点を京都市内の出町桝形(ますがた)商店街に置き、地元コミュニティーとの交流も積極的に行っている。
略歴
レイボズは昭和48年フランス・リヨン生まれ、写真家。幼少期を過ごしたアフリカで写真を始め、ブルーノート等のレコードジャケットや出版を数多く手がける。平成11年坂本龍一のオペラ「LIFE」参加のため初来日。仲西は昭和43年福岡生まれ、照明家。世界中を旅し記憶に残された光を表現している。映画、舞台、コンサート、インテリアなど様々なフィールドで照明を手がける。二人で共同制作した「境界」の展覧会をパリで行い、その足でアルルの国際写真祭を視察したことがきっかけとなり、平成25年KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭を創設して以降、毎年開催。令和5年にはKYOTOPHONIEボーダレス・ミュージックフェスティバルを創設。
主な作品等
(写真作品)「境界」、(その他)KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭、KYOTOPHONIEボーダレス・ミュージックフェスティバル

評論部門

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大阪大学大学院助教 鈴木 聖子(すずき せいこ)
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装幀:芦澤泰偉
「掬われる声、語られる芸 小沢昭一と『ドキュメント 日本の放浪芸』」の成果
舞台・映画で情味深い演技を見せた小沢昭一は、俳優とは、芸能とは――と自ら問う人でもあった。1970年代、全国の門付芸(かどづけげい)などを訪ね歩き、録音したLPシリーズを残している。本書はこの稀有(けう)な仕事と向き合う。丹念な調査・取材に基づく学術性と人間的洞察を兼ね備え、葛藤、矛盾を引き受けて小沢が到達した境地を浮上させる。なおかつ一冊を通じ、伝統音楽・芸能を「保護」する営為への真摯な問いが響き続けている。その点でも、芸術選奨文部科学大臣賞を贈られるべき成果である。
略歴
昭和46年東京都生まれ。大阪大学大学院人文学研究科アート・メディア論コース助教。雅楽演奏・雅楽器制作に携わった後、東京大学大学院人文社会系研究科文化資源学研究専攻に進学し、近代における日本音楽研究の成立過程について研究を進める。東京大学大学院人文社会系研究科附属次世代人文学開発センター研究員としてパリ社会科学高等研究院(音楽学)へ留学、パリ大学東アジア言語文化学部日本学科・助教、大阪大学大学院文学研究科音楽学研究室・助教を経て、現職。博士(文学)。専門は近現代日本音楽史・音響文化論・文化資源学。
主な作品等
「〈雅楽〉の誕生――田辺尚雄が見た大東亜の響き」(第41回サントリー学芸賞受賞)、「ベートーヴェンと大衆文化」(共著)ほか

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早稲田大学教授 マイク・モラスキー
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「ジャズピアノ――その歴史から聴き方まで」(上・下)の成果
本書は19世紀に遡るアメリカ史の大きなスパンの中で、ヨーロッパ音楽の典型といえる鍵盤楽器がいかに解放奴隷によってまず飼い馴(な)らされ、人種を超えて共感を受け、ほかに類のない即興芸術を創造してきたかを掘り下げている。ピアニストが育った都市の気質や活動都市の興行界の大枠に触れつつ、個人としての豊かなエピソードやインタビューを適材適所配し、その理解を踏まえて傑作録音の聴きどころに、自らのピアノ演奏経験を活(い)かして具体的に言及している。アメリカ文化と音楽について教わる点が多いばかりか、文の構成もまた巧みで授賞に値する。
略歴
昭和31年米国セントルイス生まれ。同51年に初来日し、のべ30数年日本滞在。シカゴ大学大学院東アジア言語文明研究科博士課程修了(日本文学で博士号)。ミネソタ大学、一橋大学教授を歴任。平成25年より早稲田大学国際教養学部教授(令和6年3月を以て退職)。戦後日本文学および文化史、ジャズ史、日本の飲食文化などを研究。ピアニストとして日本のジャズクラブに出演した経験もある。音楽以外の趣味は将棋、落語鑑賞、そして路地裏の赤提灯探索。
主な作品等
「戦後日本のジャズ文化―映画・文学・アングラ」(サントリー学芸賞)「占領の記憶 記憶の占領―戦後沖縄・日本とアメリカ」「ジャズ喫茶論」「呑めば、都―居酒屋の東京」「ひとり歩き」「日本の居酒屋文化」「ピアノトリオ――モダンジャズへの入り口」ほか

芸術選奨文部科学大臣新人賞

演劇部門

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演出家 生田 みゆき(いくた みゆき)
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「占領の囚人たち」イスラエル・パレスチナでのフィールドワークより
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「アナトミー・オブ・ア・スーサイド」舞台写真
撮影:宮川舞子
「占領の囚人たち」ほかの成果
イスラエルに収監されるパレスチナ人政治犯の「日常」を再現する「占領の囚人たち」では、キャストとともに現地を訪れ、その体験をも作劇に織り込むことで、日本の観客に距離感なく過酷な現実を知らしめた。“産む性”である故に葛藤する三世代の女性の物語が同時進行する「アナトミー・オブ・ア・スーサイド」では、緻密に絡み合う重唱の楽譜にも似た実験的な戯曲を、果敢かつ丹念に解析した。「いま」をとらえる知性と感性に加え、困難を具現化する胆力と行動力にも恵まれた、頼もしき新鋭である。
略歴
昭和61年大阪府生まれ。東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了。平成22年~同26年の「ペーター・コンヴィチュニー オペラ演出ワークショップ」(滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール主催)への参加をきっかけに、演出家を志す。平成23年に文学座附属演劇研究所入所、同28年座員に昇格。演劇ユニット「理性的な変人たち」メンバーとしても精力的に活動。令和6年「占領の囚人たち」「海戦2023」「屠殺人ブッチャー」の演出で第31回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。
主な作品等
(演劇)「霙ふる」「鯨よ!私の手に乗れ」「建築家とアッシリア皇帝」「占領の囚人たち(「Prisoners of the Occupation」「I, Dareen T.」)」「海戦2023」「アナトミー・オブ・ア・スーサイド ―死と生を巡る重奏曲―」「屠殺人ブッチャー」、(オペラ)「景虎 ―海に消えし夢―」「雪の女王」「魔笛」

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歌舞伎俳優 中村 勘九郎(なかむら かんくろう)
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「大江山酒呑童子」 ©松竹株式会社
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「祇園祭礼信仰記 金閣寺」 ©松竹株式会社
「大江山酒呑童子(おおえやましゅてんどうじ)」ほかの成果
技芸に優れ、古典から新作まで時代物、世話物を問わず人物を活写している。舞踊でも力量を発揮し、今後の活躍が大いに期待される。祖父十七世中村勘三郎初演の舞踊「大江山酒呑童子」では、愛らしい童子姿を見せ、酔態から鬼への変化も見事であった。「金閣寺」の久吉では確かな台詞廻(まわ)しで古典の二枚目らしい品位と清潔さを感じさせた。新歌舞伎「新門辰五郎(しんもんたつごろう)」で務めた会津小鉄(あいづのこてつ)のシャープさと情味を併せ持つ造形も光った。
略歴
昭和56年東京都生まれ、十八世中村勘三郎の長男。同62年1月「門出二人桃太郎」の兄の桃太郎で二代目中村勘太郎を名乗り初舞台。平成24年2月新橋演舞場「土蜘」僧智籌実は土蜘の精、「春興鏡獅子」の小姓弥生後に獅子の精などで六代目中村勘九郎を襲名。数々の歌舞伎に出演する一方で、野田秀樹、三谷幸喜、宮藤官九郎など錚々たる演出家の舞台にも出演。また映像においては、令和元年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」、同3年「忠臣蔵狂詩曲No.5 中村仲蔵 出世階段」にて主役を演じており、活躍の場を広げている。
主な作品等
「一條大蔵譚」一條大蔵長成、「義経千本桜 渡海屋 大物浦」渡海屋銀平実は新中納言知盛、「義経千本桜 川連法眼館」佐藤忠信・忠信実は源九郎狐、「夏祭浪花鑑」団七九郎兵衛、「鰯賣戀曳網」鰯賣猿源氏、「身替座禅」山蔭右京、「高坏」次郎冠者。また江戸時代の芝居小屋を模した「平成中村座」にて定期的に公演を開催している。

映画部門

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俳優 池松  壮亮(いけまつ そうすけ)
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「せかいのおきく」
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「白鍵と黒鍵の間に」
「せかいのおきく」「白鍵と黒鍵の間に」ほかの成果
池松壮亮氏は、2003年の映画デビュー以来、60本近い出演作のジャンルを問わず、常に映画の中で存在感を示し、その空間の品位を高めることに貢献してきた。2023年も「せかいのおきく」では下層の青年役をリアルに演じ、「白鍵と黒鍵の間に」では市井のピアニストに扮(ふん)し、そして「シン・仮面ライダー」では、苦悩するスーパーヒーローを演じた。それぞれ監督との強い共犯関係を築き、一貫して真摯に役柄に取り組み、映像表現の新たな可能性を提示してみせた。今後のさらなる飛躍を期待したい。
略歴
平成2年福岡県生まれ。同15年「ラスト サムライ」で映画デビュー。以降、数々の映画やドラマに出演し、同26年には「ぼくたちの家族」、「紙の月」などの演技が評価され、第57回ブルーリボン賞助演男優賞をはじめ数々の賞を受賞。その後も第93回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞ほか多数の映画賞を受賞。
主な作品等
(映画)「ラスト サムライ」「ぼくたちの家族」「紙の月」「夜空はいつでも最高密度の青色だ」「斬、」「宮本から君へ」「アジアの天使」「ちょっと思い出しただけ」「シン・仮面ライダー」ほか、(テレビドラマ)「MOZU」シリーズ、「宮本から君へ」ほか

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撮影:斉藤 光一 / 日加トゥディ
映画監督 鶴岡 慧子(つるおか けいこ)
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「バカ塗りの娘」の成果
およそ400年前から変わらず、バカ丁寧に48工程の手間をかけて生み出される漆器(しっき)「津軽塗」は「バカ塗り」と呼ばれる。この伝統工芸を継ごうとする娘をじっと見つめる映画「バカ塗りの娘」では、鶴岡慧子氏の胆力に感服させられるとともに、映画もまた、手間暇かかる、人の手による創作物であることに改めて気付かされる。130年に迫る歴史と社会的地位の変遷から、昨今映画は「伝統芸能」と呼ばれたりもするが、どっしりと揺るがず伝統を継ぐ氏への期待は高まる。
略歴
昭和63年長野県生まれ。立教大学で映画を学び、平成24年に卒業制作である初長編映画「くじらのまち」でPFFアワードグランプリとジェムストーン賞を受賞。東京藝術大学大学院を修了後、同26年にPFFスカラシップ作品「過ぐる日のやまねこ」で劇場デビュー。同作は第15回マラケシュ国際映画祭で審査員賞受賞。最新作「バカ塗りの娘」は、パリで開催されたKINOTAYO現代日本映画祭でソレイユ・ドール(金の太陽賞)受賞。現在、神戸芸術工科大学メディア芸術学科助教として教鞭をとる。
主な作品等
「まく子」「うつろいの標本箱」「ともに担げば」「過ぐる日のやまねこ」「あの電燈」「はつ恋」「くじらのまち」

音楽部門

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©Marco Borggreve
声楽家 大西 宇宙(おおにし たかおき)
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オペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」
©びわ湖ホール
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オペラ「ドン・ジョヴァンニ」
©飯島隆 兵庫県立芸術文化センター
「ニュルンベルクのマイスタージンガー」ほかの成果
声量の充実、言葉の丁寧な扱い、表現のこまやかさ。大西宇宙氏はあらゆる点において、現在、一頭地を抜いた我が国のバリトンであり、2023年は、多様なジャンルでそれを証明してみせた。ワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」(びわ湖ホール)では、パン屋コートナーに滑稽(こっけい)にして不遜(ふそん)という輪郭をくっきりと付与。「ドン・ジョヴァンニ」(兵庫県立芸術文化センター)題名役での活躍もさることながら、脇役をここまで造形できるのは、優れたオペラ歌手の証である。ほかに、井上道義氏作曲のオペラ、バッハ・コレギウム・ジャパンとのシューベルト「ミサ曲第5番」なども忘れがたい。
略歴
昭和60年東京都生まれ。武蔵野音楽大学及び大学院、ジュリアード音楽院修了。シカゴ・リリック歌劇場でデビュー。令和元年セイジ・オザワ松本フェスティバルにてルイージ指揮「エフゲニー・オネーギン」で日本オペラデビュー後、新国立劇場「愛の妙薬」、ヒューストン・グランド・オペラ「トゥーランドット」、兵庫県立芸術文化センター「ドン・ジョヴァンニ」題名役等、国内外の歌劇場で活躍。五島記念文化賞オペラ新人賞、日本製鉄音楽賞フレッシュアーティスト賞、ホテルオークラ音楽賞受賞。CD「詩人の恋」(ピアノ:小林道夫)をリリース。
主な作品等
ヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」、モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」、ドニゼッティ「愛の妙薬」、ヴェルディ「椿姫」、レオンカヴァッロ「道化師」、信長貴富「山と海猫」、井上道義「A Way from Surrender~降福への道~」

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地歌箏曲・平家・胡弓演奏家 菊央 雄司(きくおう ゆうじ)
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「平家語り研究会成果発表
平家物語の世界 その7 語りの伝統を次代に
平家物語の女性たち 小督・巴・建礼門院」
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「RENBO/恋慕〜いつの世も人は人を想う〜」
「菊央雄司地歌演奏会」ほかの成果
江戸時代の地歌箏曲家(じうたそうきょくか)は、歌、三絃(さんげん)、箏(そう)、胡弓(こきゅう)とともに、表芸である平家も演奏した。菊央雄司氏は、その全ての伝承を現在につなぐ稀有(けう)な存在である。令和5年には、それら全てに優れた活躍があった。伝承の危機にある平家の担い手としての実力を示し、大阪の菊原琴治(きくはらことじ)系統の胡弓の魅力を紹介した。「菊央雄司地歌演奏会」では、菊原琴治の時代の「野川三味線」を用いて、作物(さくもの)、繁太夫物(しげたゆうもの)、三味線組歌を演奏し、地歌に伝わる多彩な声の表現と大阪系の三絃の豊かな音色を、高い技量と表現力で披露して観客を魅了した。
略歴
昭和52年大阪府生まれ。人間国宝故菊原初子の後継者菊原光治師に12歳で入門。野川流三味線本手組歌及び古生田流箏組歌、両巻を伝受。上方胡弓を菊津木昭師に師事。長谷検校記念第6回全国邦楽コンクール最優秀賞・文部科学大臣奨励賞、大阪舞台芸術新人賞。大阪市咲くやこの花賞、大阪文化祭奨励賞、日本伝統文化振興財団賞を受賞。(公)当道音楽会会員、琴友会所属、平家語り研究会会員、「菊央雄司地歌の会」主宰、NHK文化センター西宮ガーデンズ教室講師、文楽研修生講師。
主な作品等
(DVD)第二十一回 日本伝統文化振興財団賞 菊央雄司(地歌箏曲・平家)、(CD)「地歌のいろは〜九州系地歌と上方地歌の競演〜」

舞踊部門

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Photo: Nobuhiko Hikiji
バレエダンサー 秋山 瑛(あきやま あきら)
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「ジゼル」 Photo: Koujiro Yoshikawa
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「かぐや姫」 Photo: Shoko Matsuhashi
「かぐや姫」「ジゼル」ほかの成果
海外での活動を経て平成28年東京バレエ団に入団した秋山瑛氏は、古典から近・現代にわたる同団レパートリーを次々に踊り、正確な技術と鋭敏な感性で観客の心を捉えてきた。近年の成長は著しく、令和5年「ジゼル」での繊細かつ凛(りん)とした心理表現、「眠れる森の美女」の圧倒的な華やぎは、バレエダンサーとして確実にスケールアップしたことを印象付けた。また金森穣の新作「かぐや姫」では自ら創造に関わりつつ表現を紡ぐ新たな領域に挑み、主人公の孤独と神秘性をしなやかな動きで可視化。輝きを増す表現は、更なる飛躍を期待させる。
略歴
埼玉県生まれ。7歳よりバレエを始める。東京バレエ学校、リスボン国立コンセルヴァトワールで学んだ後、イタリアのラ・カンパーニャ・バレット・クラシコで活躍。平成25年、ベルリンでのタンツオリンプで銅賞を受賞。同28年、東京バレエ団に入団、令和4年にプリンシパルに昇進した。「眠れる森の美女」、「くるみ割り人形」、「ドン・キホーテ」などの古典からコンテンポラリーまで、様々な作品で主演を踊っている。
主な作品等
「ドン・キホーテ」「海賊」「ラ・バヤデール」、ベジャール版「ロミオとジュリエット」のパ・ド・ドゥ、ノイマイヤー「スプリング・アンド・フォール」主演、バランシン「セレナーデ」、「くるみ割り人形」、クランコ版「ロミオとジュリエット」、金森穣「かぐや姫」(世界初演)、「眠れる森の美女」ほか

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バレエダンサー 速水 渉悟(はやみ しょうご)
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新国立劇場バレエ団『ドン・キホーテ』
撮影:鹿摩隆司
「ドン・キホーテ」ほかの成果
速水渉悟氏は、平成27年ユース・アメリカ・グランプリNYファイナル金賞、審査員特別賞などを受賞し、アメリカでキャリアを積んだ後、平成30年新国立劇場バレエ団に入団。以後華麗なテクニックと豊かな表現力で令和2年主役デビュー。令和5年6月「白鳥の湖」終演後舞台上でプリンシパルに昇格。2023/2024シーズン開幕初日を飾る米沢唯との10月「ドン・キホーテ」では音楽性溢(あふ)れる強靭(きょうじん)、華麗なテクニック、表現で粋なバジルを演じ切り観客を魅了した。その後も主演が続き将来が大いに期待できる。
略歴
平成8年京都府生まれ。ジョン・クランコ・バレエ学校を経て、平成27年ヒューストン・バレエに入団。同年ユース・アメリカ・グランプリNYファイナルシニア男性の部で金メダル、審査員特別賞を受賞。同30年新国立劇場バレエ団にソリストとして入団。令和2年「ドン・キホーテ」で全幕主演デビューを果たし、「竜宮 りゅうぐう」「ジゼル」「くるみ割り人形」「コッペリア」「夏の夜の夢」「白鳥の湖」の主役のほか、「ロメオとジュリエット」ベンヴォーリオ、「不思議の国のアリス」ルイス・キャロル/白ウサギなどを踊る。同3年ファースト・ソリスト、同5年プリンシパルに昇格。
主な作品等
「くるみ割り人形」王子、「ドン·キホーテ」バジル、「ジゼル」アルブレヒト、「白鳥の湖」ジークフリード王子、F.アシュトン「夏の夜の夢」オーベロン、D.ドウソン「A Million Kisses to my Skin」、R.プティ「コッペリア」フランツ、森山開次「竜宮 りゅうぐう」浦島太郎ほか

文学部門

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撮影:フルフォード海
小説家 高瀬 隼子(たかせ じゅんこ)
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「いい子のあくび」の成果
高瀬隼子氏の「いい子のあくび」は、「いい子」を演じ続け憤懣(ふんまん)をためてきた女性が主人公で、その周囲を見る目には強烈な毒が伴う。スマホをいじりながらの歩行など日常の「小さな社会問題」を取っ掛かりにしつつも、単純なメッセージ発信に主眼があるわけではなく、惰性化した現実認識を鋭く痛烈に破壊しながら、爽快なほど転覆的な語りが展開される。文章にも隙が無く一文一文に軽快なスパイスが効き、複雑で多層的な言葉の世界の構築を助けている。作家の知性と透徹した洞察力が感じられる作品で、文部科学大臣新人賞にふさわしい小説的達成に至っていると思われる。
略歴
昭和63年愛媛県生まれ。文芸同人「京都ジャンクション」で活動。令和元年に「犬のかたちをしているもの」で第43回すばる文学賞を受賞しデビュー。同3年に「水たまりで息をする」が第165回芥川龍之介賞の候補作となる。同4年に「おいしいごはんが食べられますように」で第167回芥川龍之介賞受賞。
主な作品等
「犬のかたちをしているもの」「水たまりで息をする」「おいしいごはんが食べられますように」「うるさいこの音の全部」「め生える」

美術A部門

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画家 安藤 正子(あんどう まさこ)
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安藤正子《ムービータイム》2021年
©Masako Ando Courtesy of Tomio Koyama Gallery
sticker by monyochita pomichi, limpendo
photo by Tamotsu Kido
anonymous collection蔵
「安藤正子展 ゆくかは」ほかの成果
安藤正子氏は、独特の視点から高度な絵画技術をもって優れた絵画作品を制作しているが、近年は陶、映像、インスタレーションなどの表現も併せて展開している。家族や身辺の諸事に目を留め、変化や移ろいを様々な手法で視覚化させる表現は自然や人の「生」そのことに向けられている。「安藤正子展 ゆくかは」は、代表作の絵画作品から新作まで、氏のこれまでの創作営為を総覧する展覧会であった。現在、世界の至る所で起きている多くの厄災に対して、氏は自らの生活圏内で日々の光陰を見つめ、存在の様相を深い感情で掬(すく)い上げ向き合おうとする。その精神と大いなる試みは今後さらにその芸術の領野を広げてゆくことが期待される。
略歴
昭和51年愛知県生まれ。瀬戸市在住。平成13年愛知県立芸術大学大学院修了。現在、同大学美術学部油画専攻准教授。令和2年愛知県芸術文化選奨文化新人賞受賞。主な個展に、平成24年「ハラ ドキュメンツ9 安藤正子 ― おへその庭」原美術館。パブリックコレクションとして、愛知県美術館、札幌宮の森美術館、瀬戸市美術館、高橋龍太郎コレクション、高松市美術館、原美術館ARC等に収蔵。著書に、「Songbook 安藤正子作品集」「安藤正子 ゆくかは」など。
主な作品等
「おへその庭」「貝の火」「雲間にひそむ鬼のように」「Light」「うさぎ」「パイン」「APE」「ニットの少女」「Son」「チェックのシャツの男」「ムービ―タイム」「ドラえもんが好き」「スシローにて」ほか

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撮影:市川勝弘
美術作家 大巻 伸嗣(おおまき しんじ)
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「Liminal Air Space-Time 真空のゆらぎ」
撮影:木奥 惠三
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「Gravity and Grace」
提供:Courtesy of A4 Museum
「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」展ほかの成果
大規模なインスタレーションを展開する大巻伸嗣氏は、鑑賞者の身体感覚に働きかけ、展示空間を非日常的な空間に変容させる。今回発表された「Gravity and Grace」の最新バージョンとともに、真っ暗な展示室で発表された「Liminal Air Space - Time 真空のゆらぎ」は、風を孕(はら)むことで刻々と動き、変化する布の姿が観客を圧倒する。量感を変化させ続ける新しい彫刻の可能性を示してもいる。近作の言語と映像による作品を含め、人間存在自体を問う彫刻家の今後を期待したい。
略歴
昭和46年岐阜県生まれ。平成9年東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。現在、同大学彫刻科教授。「存在」とは何かをテーマに身体感覚を伴う空間作品を制作。主な展覧会として、弘前レンガ倉庫美術館「地平線のゆくえ」、A4美術館(中国成都)「The Depth of Light」、箱根彫刻の森美術館「存在の証明」がある。ジャポニスム2018「深みへー日本の美意識を求めてー」、瀬戸内国際芸術祭、横浜トリエンナーレ、アジアンパシフィックトリエンナーレなど、国内外の国際展に参加。「Rain」「Futuristic Space」などの舞台美術を担当。東京ガーデンプレイス紀尾井町、Ijlst(オランダ)、Morpheus hotel at City of Dreams(マカオ)、高松港(香川)などパブリックアートも多く手がけている。
主な作品等
「Liminal Air」「Echoes Infinity」「Echoes Crystallization」「Flotage」「Gravity and Grace」「Memorial Rebirth」ほか

美術B部門

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アーティスト 梅田 哲也(うめだ てつや)
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写真:金川晋吾
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写真:金川晋吾
個展 「wait this is my favorite part 待ってここ好きなとこなんだ」ほかの成果
令和5年の梅田哲也氏の活動の中で、とりわけ個展「wait this is my favorite part 待ってここ好きなとこなんだ」で極めてユニーク且つ優れた作品が発表された。氏が作品の素材とするのは、音、光、影、記憶そして開催地の歴史等、形のないものばかりだが、強く人の心に響き印象を残す。既存の建物や土地、それに付随するものが装置としてあるが、現象の鑑賞体験が実存する全てである。一貫した20年余りの創造的行為がこの個展に結実され、さらに今後が期待される飛躍の年となった。
略歴
昭和55年熊本県生まれ。現地にあるモノや日常的な素材と、物理現象としての動力を活用したインスタレーションを制作する一方で、パフォーマンスでは、普段行き慣れない場所へ観客を招待するツアー作品や、劇場の機能にフォーカスした舞台作品、中心点を持たない合唱のプロジェクトなどを発表。先鋭的な音響のアーティストとしても知られる。
主な作品等
「梅田哲也 イン 別府「O滞」」「うたの起源」「わからないものたち」「りんご」「迷信の科学」「リバーウォーク」「9月0才」「入船(ニューふね)」「インターンシップ」「Composite」

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Photo:Maetani kai
建築家 西澤 徹夫(にしざわ てつお)
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Photo:Osamu Sakamoto
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Photo:Osamu Sakamoto
「偶然は用意のあるところに」展の成果
それ自体が観られる対象となるまでに際立たせることが建築の目標になって久しい建築界の中で、西澤徹夫氏は、それとは全く逆に、そこでの人々の振る舞いを一つの質に整えながらも、各人それぞれが自由に振る舞える背景としての建築のあり方を模索し実現してきた。こうした、主役のあり方を規定しつつも、そこを偶然が羽ばたく場とする脇役に徹する試みを、建築ではなく自らの個展という別の形において緻密に構成しきったことは、この方法がより広がりのある可能性を持つことを証明したと言え、高く評価できる。
略歴
昭和49年京都府生まれ。平成12年東京藝術大学美術研究科建築専攻修了。同12年〜同17年青木淳建築計画事務所、同19年西澤徹夫建築事務所設立。「東京国立近代美術館所蔵品ギャラリーリニューアル」(同24年)、「京都市京セラ美術館」(同31年:共同設計)、「八戸市新美術館設」(令和3年:共同設計)など美術館・文化施設の設計に多く関わる。日本建築学会賞(作品)、JIA建築大賞、第30回AACA賞、第62回毎日芸術賞ほか多数受賞。
主な作品等
東京国立近代美術館所蔵品ギャラリーリニューアル、京都市京セラ美術館、八戸市美術館、「パウル・クレー|おわらないアトリエ」展会場構成、「ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」展会場構成ほか

メディア芸術部門

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株式会社 SCRAP 代表取締役社長 加藤 隆生(かとう たかお)
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「終わらない夏祭りからの脱出」ほかの成果
リアルな場で大勢が集まってプレイする謎解き体験「リアル脱出ゲーム」を作り出し、ありとあらゆる工夫と挑戦を繰り広げ展開してきた加藤隆生氏とその仲間たちは、常にファンを増やし続けてきた。幕張メッセのホールをフルに使った大規模な「終わらない夏祭りからの脱出」や、継続的な常設店舗での展開、実験的な試み、家庭で遊ぶパッケージ型のリリースなど、その活動は、謎解きのみにとどまらずエンターテインメントの世界全体に影響を与えている重要な取組である。
略歴
昭和49年岐阜県生まれ。平成16年7月にフリーペーパー「SCRAP」を創刊し、企画の一つとして同17年7月に京都で開催した「リアル脱出ゲーム」が好評を博し、同20年株式会社SCRAP設立。これまでに400以上のイベントを開催し、全世界で1090万人を動員。その全ての制作総指揮を執る。同25年には「巨大神殿からの脱出」にて同時に3000人が参加し、一度に公演に参加する人数が最多の脱出謎解きイベントとしてギネス世界記録に認定。令和5年8月には幕張メッセにて、同時に4000人が参加可能な「終わらない夏祭りからの脱出」を開催。2日間で約2万人が参加した。
主な作品等
「謎解きの宴」「謎の部屋からの脱出」「巨大神殿からの脱出」「夜の遊園地からの脱出」「月面基地からの脱出」「夜のミステリーホテルからの脱出」「時空研究所からの脱出」「びっくり謎工場からの脱出」ほか

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アニメーション作家 和田 淳(わだ あつし)
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©和田淳・ニューディアー/東映アニメーション
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「いきものさん」の成果
和田淳氏のアニメーションは、我々の五感を刺激する。体毛の手触り、耳元で聞こえる息遣いと吐く息の匂い、滑るような肢体の柔らかさなど、この作品は我々が忘れかけていた感覚を呼び覚まし、それを味わう快感を思い起こさせてくれる。氏の作品が、奇抜な設定と個性的なビジュアルにも関わらず、広く世界中の人々の支持を集めている理由は、氏の高い作画技術とともに、これらの、人類に共通した感覚の核心を突いているからではないだろうか。
略歴
昭和55年兵庫県生まれ。大阪教育大学、イメージフォーラム付属映像研究所、東京藝術大学大学院で映像を学ぶ。平成14年頃から短編アニメーションを制作しはじめ、「間」と「気持ちいい動き」を大きなテーマに制作を続けている。ベルリン国際映画祭短編部門銀熊賞、オタワ国際アニメーション映画祭グランプリ、文化庁メディア芸術祭優秀賞など国内外で受賞。また近年ではゲーム「マイエクササイズ」(令和2年)、映像インスタレーション「私の沼」(平成29年)など映画制作以外での発表も増えている。
主な作品等
(短編アニメーション)「わからないブタ」「春のしくみ」「グレートラビット」「秋 アントニオ・ヴィヴァルディ「四季」より」「半島の鳥」ほか、(ゲーム)「マイエクササイズ」、(映像インスタレーション)「私の沼」

放送部門

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ディレクター 石原 大史(いしはら ひろし)
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「“冤罪”(えんざい)の深層~警視庁公安部で何が~」ほかの成果
「“冤罪”の深層~警視庁公安部で何が~」は、不正輸出の冤罪が生み出された深層/真相を徹底した取材で明らかにする調査報道の傑作である。企業、警視庁公安部、経産省など関係者への取材、法廷での生々しい証言、内部告発の手紙の文面、輸出機械の構造、規制に関する資料など番組で提示される情報は全て具体的で、重要な証言は番組独自の取材から得られている。ジャーナリズムの志を貫く姿勢、報道番組としての構成、共に優れており、現代社会に深く切り込む石原大史氏の取組は芸術選奨文部科学大臣新人賞に値する。
略歴
昭和53年福島県生まれ。平成15年NHK入局。主に長編ドキュメンタリー、調査報道番組の制作に携わる。平成23年ETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図」(第66回文化庁芸術祭大賞)、同27年「薬禍の歳月 ~サリドマイド事件・50年~」(第70回文化庁芸術祭大賞、第41回放送文化基金賞・最優秀賞)、同29年NHKスペシャル「調査報告 膨らむコスト」(第54回ギャラクシー選奨)令和3年「原発事故 最悪のシナリオ そのとき誰が命を懸けるのか」(第64回JCJ賞)など。
主な作品等
ETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図」、「薬禍の歳月 ~サリドマイド事件・50年~」「毒と命 カネミ油症 母と子の記録」「ペリーの告白 元米国防長官沖縄への旅」「原発事故 最悪のシナリオ」、NHKスペシャル「空白の初期被爆」、「調査報告 膨らむコスト」「夢をつかみにきたけれど」ほか

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脚本家・劇作家 長田 育恵(おさだ いくえ)
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「らんまん」の成果
長田育恵氏は劇作家として主要な演劇賞を受賞している。テレビドラマの脚本作品は多くないが、志賀直哉(しがなおや)原作の「流行感冒」(2021年NHK)では確かな人間描写で高く評価された。「らんまん」では、モデルとなった植物学者・牧野富太郎博士が多くの障壁に直面しながらも、「名もなき草はない」という思想を貫く姿を生き生きと描いた。妻をはじめとする多彩な登場人物へのまなざしも一貫しており、演劇で培った力量が放送の世界でも発揮されることを大いに期待したい。
略歴
昭和52年東京都生まれ。平成19年に日本劇作家協会・戯曲セミナーに参加し、同20年より井上ひさし氏に師事。同21年、劇団「てがみ座」を旗揚げ。同27年に、てがみ座「地を渡る舟-1945/アチック・ミューゼアムと記述者たち-」にて第70回文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞、同28年に「蜜柑とユウウツ-茨木のり子異聞-」にて鶴屋南北戯曲賞、同30年に「砂塵のニケ」「海越えの花たち」「豊饒の海」にて紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。近年は、テレビドラマや映画等の映像作品の脚本も執筆。
主な作品等
(舞台)「乱歩の恋文」「燦々」「ゲルニカ」「現代能楽集Ⅹ「幸福論」~能「道成寺」「隅田川」より~」、ミュージカル「ロボット・イン・ザ・ガーデン」、(テレビドラマ)「マンゴーの樹の下で ~ルソン島、戦火の約束~」「すぐ死ぬんだから」「流行感冒」「群青領域」「旅屋おかえり」

大衆芸能部門

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撮影:橘蓮二
音曲師 桂 小すみ(かつら こすみ)
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提供:国立演芸場
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「国立演芸場3月中席」ほかの成果
甲高(かんだか)い喋(しゃべ)りが明るい。達者な三味線と唄は通常の寄席の俗曲(ぞっきょく)にとどまらず、洋楽と邦楽の折衷に、観客の驚きと笑いを生み出す。三味線を置いて他の楽器を取り出すこともしばしば。元々の音楽歴に、寄席囃子(よせばやし)での相当の蓄積ののちに、前座修業から音曲師(おんぎょくし)として高座に上がり、その全てを紡ぎながら、この数年での芸の駆け上がりは目を瞠(みは)るものがある。三味線のベースの上に、かつてない寄席の芸が生み出された。大きな期待ができる。
略歴
昭和48年山形県生まれ、横浜育ち。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。東京学芸大学教育学部卒業。在学中に文部省派遣でウィーン国立音楽大学に留学、ミュージカル専攻科を特別賞で修了。三味線を野口美恵子、杵屋佐之忠に師事。杵屋佐之萌の名を許される。国立劇場第11期寄席囃子研修修了後、平成15年落語芸術協会にお囃子として入会。三味線漫談の玉川スミに師事し、師の引立てにより音曲師へ。同30年桂小文治門下、桂小すみとなる。令和4年令和3年度花形演芸大賞「大賞」、同5年第40回浅草芸能大賞「新人賞」受賞。
主な作品等
古典より換骨奪胎した「大薩摩版うさぎとかめ」「マライア木遣りー」「えんだー」、復元曲「櫓太鼓曲弾き」、箏と尺八の一人二重奏「さくら」、オリジナル曲「愛しのカレー」「れいぞうこの唄」「組曲隅田川よりナイルの風、ピラニアの塩焼き」、ラジオ「「小痴楽の楽屋ぞめき」ジングル」ほか

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漫談家 ねづっち
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「ねづっちのイロイロしてみる60分」
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「ねづっちのイロイロしてみる60分」
「ねづっちのイロイロしてみる60分」ほかの成果
落語家の心得の一つである謎かけを、子供から大人までエイジレスで楽しめる芸に昇華させた功績は唯一無二。漫談家としての話芸も群を抜き、平成23年より開催中の単独ライブ「ねづっちのイロイロしてみる60分」では、50分近い漫談で観客を釘付(くぎづ)けにする。YouTube「ねづっちチャンネル」の登録者は25万人を超え、毎日新ネタをアップする日常を10年来続けている。落語芸術協会、漫才協会に所属し、年間出演数は約500回。寄席芸人としての存在感も目を見張る。
略歴
昭和50年東京都生まれ。平成7年、芸人デビュー。「毎日、舞台に立ちたい」の思いから、漫才師Wエースに師事し、漫才協会に入会。同22年、「ととのいました!」の掛け声に続いて披露する「謎かけ」で注目を集める。同23年から開催している単独ライブ、「ねづっちのイロイロしてみる60分」は、令和6年4月に140回目を迎える。現在、寄席、ライブ、テレビ、ラジオ、YouTubeなど多方面で活動中。
主な作品等
事務所ライブ「東京笑い者」、浅草東洋館「漫才大行進」、落語芸術協会定席(新宿末広亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場など)

芸術振興部門

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ZENBI-鍵善良房-KAGIZEN ART MUSEUM 館長 今西 善也(いまにし ぜんや)
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企画展「宮永愛子-海をよむ」展示風景
企画展「宮永愛子-海をよむ」ほかの成果
京都祇園の老舗和菓子屋の店主として伝統を守り続けるかたわら、時代に合った菓子づくりも試みている。他方、文人墨客(ぶんじんぼっかく)に愛され、文化サロンとして機能していた店の理念を受け継ぎ、文化芸術を支援。2021年に美術館「ZENBI- 鍵善良房 -KAGIZEN ART MUSEUM」を開設した。鍵善が保有する美術工芸コレクションを公開する一方、2023年には京都出身の現代アーティスト宮永愛子の個展を開催。民間における芸術振興の模範例の一つと呼べるだろう。
略歴
昭和47年京都府生まれ。京都祇園にある菓子屋鍵善良房の長男として生まれ育ち、同志社大学を卒業後、東京銀座にある菓子屋にて修業。その後、家業を継ぐために家に戻り、平成20年に父の意向で社長交代し、江戸享保年間より続く和菓子屋の15代目当主となる。連綿と続く京都の菓子の伝統を守りながらも、常に時代にあった菓子作りを心がける。同24年には祇園町南側に和菓子とコーヒーを楽しめる空間としてZENCAFEを、令和3年には鍵善と祇園町の昔話と思いを伝えていく小さな美術館ZENBIをオープンさせた。
主な作品等
開館記念特別展「黒田辰秋と鍵善良房-結ばれた美への約束」、開館記念特別展「山口晃-ちこちこ小間ごと-」、企画展「辻村史朗-茶盌 TSUJIMURA SHIRO 100 WORKS」、鍵善良房コレクション「河井寬次郎とその系譜」、企画展「光の器」樂雅臣彫刻展

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撮影:松見拓也
KYOTO EXPERIMENT 共同ディレクター 川崎 陽子(かわさき ようこ)
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ウィチャヤ・アータマート/For What Theatre
「ジャグル&ハイド(演出家を探すなんだかわからない7つのモノたち)」 撮影:中谷利明
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ジャールナン・パンタチャート
「ハロー・ミンガラバー・グッドバイ」
ポスト・パフォーマンス・トークより
「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2023」の成果
川崎陽子氏は、京都国際舞台芸術祭の3人の共同ディレクター(他は塚原悠也氏、ジュリエット・礼子・ナップ氏)の統括的立場として、国内外の「実験」的な舞台芸術を創造・発信し芸術表現と社会を繋(つな)ぐというミッションを継承しつつ、さらに関西圏の歴史・文化資産を活用した地域振興、令和5年からは継続的な運営の柱として寄付を募る「KEXサポーター」制度を開始。芸術祭を新しい切り口で持続可能な国際的なプラットフォームとして発展させた功績は大きい。
略歴
昭和57年三重県生まれ。東京外国語大学ドイツ語学科卒業後、ベルリン自由大学にて学ぶ。株式会社CAN、京都芸術センター アートコーディネーターを経て、平成26-27年、文化庁新進芸術家海外研修制度によりベルリン HAU Hebbel am Ufer劇場にて研修。KYOTO EXPERIMENTには同23年より制作として参加、令和2年より塚原悠也、ジュリエット・礼子・ナップと共に共同ディレクターを務め、分野横断的・実験的な舞台芸術作品のプログラムに加えてアジア圏の新たな国際協働等に取り組んでいる。
主な作品等
(プロデュース)ウィチャヤ・アータマート「ジャグル&ハイド(演出家を探すなんだかわからない7つのモノたち)」、中間アヤカ「踊場伝説」、ジャールナン・パンタチャート「ハロー・ミンガラバー・グッドバイ」、「Moshimoshi City」、松本奈々子、西本健吾/チーム・チープロ「京都イマジナリー・ワルツ」

評論部門

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静岡大学専任講師 原 瑠璃彦(はら るりひこ)
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「洲浜論(すはまろん)」の成果
原瑠璃彦氏は、本来、海辺の風景をさした洲浜(すはま)が、平安時代以来の文化の中で、いかなる意味を持ち、機能してきたかを横断的に論じる。左右に分かれて、和歌を詠み優劣を競う歌合(うたあわせ)において、モノとしての洲浜台(すはまだい)が使われたことに着目する。本書の特色は、和歌にとどまらず、美術、庭園、宗教、能楽にも関わる洲浜の表象を、野心的に渉猟する強い意志にある。今後の展開を期待させる業績となった。
略歴
昭和63年生まれ。静岡大学人文社会科学部・地域創造学環専任講師。博士(学術)。一般社団法人 hO理事。専門は日本の庭園、能・狂言。東京大学教養学部卒業、同大学院総合文化研究科修士課程修了の後、令和2年、博士論文「洲浜の表象文化史」で同研究科博士課程修了。同元年より日本庭園の新しいアーカイヴを開発する庭園アーカイヴ・プロジェクトを始動。坂本龍一+野村萬斎+高谷史郎 能楽コラボレーション「LIFE-WELL」(平成25年)、「翁プロジェクト」(令和2年-)等でドラマトゥルク担当。同2年より京都・西陣織 株式会社 細尾によるHOSOO GALLERYのリサーチ・ディレクション担当。
主な作品等
(単著)「日本庭園をめぐる――デジタル・アーカイヴの可能性」、(共著)「翁の本」シリーズ、(共編著)「大倉源次郎の能楽談義」ほか、(作品)ウェブサイト「Incomplete Niwa Archives 終らない庭のアーカイヴ」、インスタレーション「Incomplete Niwa Archives 終らない庭のアーカイヴ」ほか

写真
©樋川智昭
音楽学者 堀 朋平(ほり ともへい)
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©木下悠
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2022年9月「シューベルト交響曲全曲演奏会」
山田和樹(指揮)とのプレトーク
(提供:住友生命いずみホール)©樋川智昭
「わが友、シューベルト」の成果
「未完成交響曲」の不完全な儚(はかな)さ。歌曲集「冬の旅」の果てしない彷徨(さまよ)い。弦楽四重奏曲「死と乙女」の強迫的妄執。シューベルトの音楽は、現代人のかたち定かならず不安に苛(さいな)まれる心を尖鋭(せんえい)に先取りする。本書はそんな作曲家の見事な分身だ。書物そのものが、シューベルトの影法師であるかのような捉えがたい迷宮的構造を有する。作曲家の魂と同行二人となって、幽体離脱するかのように時空を駆け巡る。極端に微視的か、極端に巨視的か。中庸に収まるところがない。シューベルトはそのようにしてしか論じられぬと本書は教える。組立ての独創性において傑出した音楽批評である。堀朋平氏の今後に期待する。
略歴
昭和54年神奈川県生まれ。国立音楽大学大学院修士課程修了(音楽学専修)、東京大学大学院博士後期課程修了(美学芸術学)。博士(文学)。音楽学を礒山雅に、美学を小田部胤久に師事。住友生命いずみホール音楽アドバイザー。国立音楽大学・九州大学非常勤講師。アーティストとの対話や他分野との交流に根ざしたやわらかな音楽研究をこころざす。福岡在住。
主な作品等
(単著)「〈フランツ・シューベルト〉の誕生――喪失と再生のオデュッセイ」、(共著)「バッハ キーワード事典」、(共訳)バドゥーラ=スコダ「新版 モーツァルト――演奏法と解釈」、ボンズ「ベートーヴェン症候群」ほか