令和4年度受賞者紹介
芸術選奨文部科学大臣賞
演劇部門

歌舞伎俳優 尾上 菊之助(おのえ きくのすけ)

/撮影:岡本隆史

- 「義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)」ほかの成果
- 古典、新作の両方で近年の活躍は目覚ましい。令和4年は尾上菊五郎家の芸である舞踊「土蜘」、時代物の大作「盛綱陣屋」の盛綱で優れた演技を見せた。成果が顕著だったのが十月国立劇場の「義経千本桜」。岳父中村吉右衛門に学んだ平知盛、父菊五郎の教えを受けたいがみの権太と佐藤忠信実は源九郎狐という立役(たちやく)の大役三役を的確に演じ分けた。優れた資質に加えて芸への真摯さも備えており、今後への期待は大きく、顕彰するにふさわしい。
- 略歴
- 昭和52年東京都生まれ。七代目尾上菊五郎の長男。同59年2月歌舞伎座「絵本牛若丸」の牛若丸で六代目尾上丑之助を名乗り初舞台。平成8年5月歌舞伎座「弁天娘女男白浪」の弁天小僧ほかで五代目尾上菊之助を襲名。近年は女方の大役を多く務めるとともに、舞踊、また時代・世話を問わず立役も幅広く挑戦している。古典歌舞伎を真摯に務めつつ復活狂言や新作歌舞伎にも意欲的に取り組み、「NINAGAWA 十二夜」「風の谷のナウシカ」などを企画、上演している。映像作品にも数多く出演。
- 主な作品等
- 「京鹿子娘道成寺」白拍子花子、「助六由縁江戸桜」揚巻、「伽羅先代萩」政岡、「魚屋宗五郎」宗五郎、「土蜘」僧智籌実は土蜘の精、「風の谷のナウシカ」ナウシカ・クシャナ、「身替座禅」山蔭右京、「義経千本桜」知盛・権太・忠信、「ファイナルファンタジーX」ティーダ

俳優 段田 安則(だんた やすのり)

写真提供:株式会社パルコ

写真提供:株式会社パルコ
- 「セールスマンの死」ほかの成果
- 硬軟自在、常に我欲や力みとは無縁の自然体で作品に向き合う。その姿勢は、自ら演出も担った「女の一生」はもとより、従来のリアリズム演出とはかなり異なる「セールスマンの死」においても、揺らぐことがなかった。現実と幻想が混在し、自負と焦燥、愛憐(れん)と激昂(こう)など感情の振り幅も烈(はげ)しい。観客を、そんな崩壊寸前の主人公の脳内を巡る旅へと無理なく導いてみせた。融通無碍(げ)にして、一挙手一投足に説得力が滲(にじ)む名演だった。
- 略歴
- 昭和32年京都府生まれ。青年座研究所を経て、野田秀樹主宰の「劇団夢の遊眠社」の主力俳優として多くの作品に出演。その後、舞台だけでなく、テレビドラマ、映画、ナレーションなど、幅広い役柄、様々な作品で、活躍を続けている。舞台では、平成19年に、第14回読売演劇大賞大賞・最優秀男優賞を受賞、同30年には、第53回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞している。「女の一生」などでは、出演と、演出の仕事も務めた。
- 主な作品等
- (舞台)「女の一生」「泣くロミオと怒るジュリエット」「死と乙女」「民衆の敵」「夢の裂け目」、(ドラマ)「カムカムエヴリバディ」「半沢直樹」「和田家の男たち」など
映画部門

特撮監督 尾上 克郎(おのうえ かつろう)


- 「シン・ウルトラマン」ほかの成果
- 学生時代の8ミリ自主映画作品出演をきっかけに、美術部はじめ様々な映画制作現場を体験してきた尾上克郎氏のキャリアは40年を超える。矢島信男氏創設の「特撮研究所」に所属以来、先人たちの残した特撮技術と、現代の最先端映像合成技術を駆使し、映画の可能性を拓(ひら)き、豊かに実らせるその技は、「シン・ウルトラマン」でも大いに発揮された。全スタッフが知恵と力をあわせて創り上げる「映画」への敬意と「技術」への挑戦、後進への継承の熱意に打たれる。
- 略歴
- 昭和35年鹿児島県生まれ。大学在学中に自主映画制作参加をきっかけにプロへの道を歩み、映画、ドラマ、CMなどの美術、特殊効果係としてキャリアを積む。操演技師を経て、平成6年特撮監督デビュー。映像技術のデジタル化にいち早く取り組み、従来型の特撮技術と最新のVFX技術を組み合わせる手法で多くの作品に様々な技術やノウハウを提供。特撮文化の推進、継承を目的としたアーカイブ事業にも取り組む。「円谷英二ミュージアム」総合監修、第1回、7回、10回、13回「AsianFilm Award」Best VFX Award優秀賞、第37回「日本SF大賞」特別賞。
- 主な作品等
- (映画)「陰陽師」「ローレライ」「日本沈没」「西遊記」「のぼうの城」「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」「杉原千畝」「シン・ゴジラ」「パンク侍、斬られて候」「シン・ウルトラマン」「仕掛人・藤枝梅安」、(テレビドラマ)「いだてん〜東京オリムピック噺〜」

衣装デザイナー 宮本 まさ江(みやもと まさえ)

©2022 映画「キングダム」製作委員会
- 「キングダム2 遥かなる大地へ」ほかの成果
- 時代劇から現代劇まで、その作品に適した寄り添い方で、繊細かつ大胆に世界観の構築に寄与する衣装。それを実現させる手腕が文部科学大臣賞にふさわしいと評価した。令和4年の対象作品の一つ「キングダム2 遥かなる大地へ」の衣装は、特に複雑な表現力で作品に貢献した。兵士に土地の色の甲冑(ちゅう)(衣装)を着せることで時代の大きなうねりを、主人公の信と一匹狼の剣士・羌瘣に白を纏(まと)わせることで未知数だが世界をけん引する存在に成りうる力を感じさせた。映画・映像分野の衣装、第一人者にして、時に自ら素材探しから始める作品世界を第一にする姿勢。衣装だからこその表現を創作し続けている。
- 略歴
- 昭和60年第一衣裳入社、フリーを経て調布市内に株式会社ワード・ローブを立ち上げる。衣装・衣装デザインで大作から独立系映画まで幅広く活躍。テレビドラマ、舞台でも多くの作品を手がける。平成25年日本アカデミー賞協会特別賞を受賞。「夢二」、「マークスの山」、「わたしのグランパ」、「キングダム」、「燃えよ剣」など関わった映画は200本を超える。
- 主な作品等
- 「会社物語」「夢二」「12人の優しい日本人」「外科室」「寝盗られ宗介」「金融腐蝕列島〔呪縛〕」「顔」「空中庭園」「僕達急行A列車で行こう」「千年の愉楽」「図書館戦争」「キングダム」「ヤクザと家族The Family」「キングダム2遥かなる大地へ」「山女」
音楽部門

ピアニスト 児玉 桃(こだま もも)

/浜離宮朝日ホール

- 「メシアン・プロジェクト2022」の成果
- メシアンの音楽を様々な側面から徹底的に学んだ児玉桃氏は、彼の作品を機会あるごとに演奏し、メシアン未亡人であるイヴォンヌ・ロリオにも絶賛された。2022年はそのメシアンの没後30年に当たっており、その節目に「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」を始め、メシアンの代表的作品を3日にわたって演奏するメシアン・プロジェクトを展開した。メシアンの作品が自らの身体の一部であるかのように血肉化した説得力に満ちた演奏は、今や世界有数といっても良いほどの完成度の高さを持ち、改めて氏のライフワークとしてのメシアン解釈の比類のなさを印象付けものとなった。
- 略歴
- パリ国立高等音楽院で研鑽を積み、平成3年ミュンヘン国際音楽コンクールに最年少で最高位に輝く。以来、ケント・ナガノ指揮ベルリン・フィル、小澤征爾指揮ボストン響、デュトワ指揮N響など世界的な指揮者・オーケストラと共演。同25年には東京オペラシティ文化財団との共同委嘱による「細川俊夫・練習曲集」をルツェルン音楽祭(ドイツ・世界初演)/ウィグモアホール(イギリス)/東京オペラシティコンサートホール(日本)にて演奏。平成21年芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。現在、カールスルーエ音楽大学(ドイツ)教授。パリ在住。
- 主な作品等
- (CD)メシアン「トゥーランガリラ交響曲」「鳥のカタログ」、「モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番」、「ショパン:ピアノ協奏曲」、「ラヴェル:ピアノ協奏曲」「鐘の谷〜ラヴェル、武満、メシアン:ピアノ作品集」、「細川俊夫:月夜の蓮―モーツァルトへのオマージュ―」

山田流箏曲演奏家 山登 松和(やまと しょうわ)

撮影:秦 達夫

撮影:秦 達夫
- 「山登松和の会」ほかの成果
- 江戸時代後期に誕生した山田流箏(そう)曲では、ドラマティックな大曲から江戸っ子の情趣を凝縮した小品まで、硬軟併せ持った表現が求められる。「山登松和の会」は、山登松和氏が追求してきた「素の響きの美しさ」を具現し、山田流箏(そう)曲の多層性に富む魅力を際立たせた。特に組歌「四季曲」の透明感あふれる演奏は心に残る。このほか「根曳の松」の力強く華やかな箏(こと)の響き、小品で示された間の良さと精妙な声の表現も忘れ難い。山田流箏(そう)曲家としての実力と真価を示した年となった。
- 略歴
- 昭和41年東京都生まれ。東京藝術大学卒業、同大学院修士課程修了。四歳より祖母山登愛子に山田流箏曲の手ほどきを受け、同49年より中能島欣一師、同59年より鳥居名美野師に師事する。平成2年赤坂御所にて御前演奏。同6年国際交流基金派遣専門家としてアフリカ4か国公演に参加。同11年山登派七代家元山登松和を襲名。同13年ビクター財団賞「奨励賞」受賞。同14年「第一回 山登松和の会」にて文化庁芸術祭優秀賞受賞。同20年松尾芸能賞新人賞受賞。同27年アラブ首長国連邦アブダビの迎賓館にて演奏会開催。山登会主宰。
- 主な作品等
- (CD)「祝い箏」「日本の四季 ― 祝い箏―」「箏の世界」「第5回ビクター伝統文化振興財団賞 奨励賞 山登松和」「ZEN YAMATO」「ZEN YAMATO II」
舞踊部門

琉球舞踊家 志田 真木(しだ まき)


Photo:Yumi Shingu
- 「伊野波節(ぬふぁぶし)」「黒髪」の成果
- 令和4年はコロナ禍の治まらぬ中での困難な舞台制作だったが、そんな中にあっても目に立った舞台が、セルリアンタワー能楽堂における「琉(りゅう)球舞踊真木の会」で、ことに「伊野波節」「黒髪」は出色の出来だった。「伊野波節」は琉(りゅう)球伝統舞踊の珠玉の名作。女の激しく燃え上がる情念を極めてゆったりした動きに収斂(れん)して心で踊る所作は演者の成長を見せつけ、本條秀太郎作曲・演奏になる「黒髪」は地唄とは違った新境地を表現して成功した。
- 略歴
- 昭和45年、琉球舞踊重踊流宗家 志田房子(人間国宝)の次女として、東京都に生まれる。1990年代から20年余の沖縄生活を経たのち、東京と沖縄を拠点に国内外の舞台出演や自身のリサイタル「琉球舞踊 真木の会」等、琉球舞踊の持つ芸術的価値に目を向けた美の探求と表現活動を多岐にわたって展開。王朝期より受け継がれる古典から、現代の創作までを豊かに演じ分け、平成17年第60回記念文化庁芸術祭新人賞、同21年第64回文化庁芸術祭優秀賞、同27年第70回文化庁芸術祭大賞と三冠を達成。令和2年文化庁文化交流使。
- 主な作品等
- 「琉球舞踊 真木の会」(平成17年から定期的に開催)「柳」「諸屯」「作田」「伊野波節」「花風」「むんじゅる」「水鏡」「あかゆら」「黒髪」「御代の春」「琉球古典舞踊の為の 琉球舞踊俚奏楽 関寺小町」など

バレエダンサー 福岡 雄大(ふくおか ゆうだい)

撮影:鹿摩隆司
- 「春の祭典」ほかの成果
- 福岡雄大氏は、数々の国際コンクールで受賞後、平成21年新国立劇場バレエ団に入団、以後華麗なテクニックと豊かな表現力で古典バレエから近代バレエ、コンテンポラリー作品まで、主演を続け成果を上げてきた。令和4年も古典バレエでの成功のみならず、平山素子、柳本雅寛版「春の祭典」では2台のピアノと男女二人のダンサーという小人数の空間構成で、ストラヴィンスキーの難曲に拮(きっ)抗し、二つの肉体と精神が交差し、人間の根源的かつ壮大な世界観を描ききったことは大いに評価できる。
- 略歴
- 昭和58年大阪府生まれ。ケイ・バレエスタジオで矢上香織、久留美、恵子に師事。平成15年文化庁在外研修員としてチューリッヒ・ジュニアバレエに入団、ソリストとして活躍。同17年チューリッヒ·バレエにドゥミソリストとして入団し、同19年まで所属。同15年こうべ全国洋舞コンクールバレエ男性シニアの部第1位、同20年ヴァルナ国際バレエコンクールシニア男性部門第3位などがある。同21年新国立劇場バレエ団にソリストとして入団。同24年プリンシパルに昇格。同23年中川鋭之助賞、同25年舞踊批評家協会新人賞、同30年芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
- 主な作品等
- 「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」「ドン・キホーテ」「ライモンダ」「ラ・バヤデール」「白鳥の湖」「ジゼル」「シンデレラ」「不思議の国のアリス」「ホフマン物語」「ベートーヴェン・ソナタ」「パゴダの王子」「アラジン」「シルヴィア」「こうもり」「コッペリア」「マノン」「ロメオとジュリエット」など
文学部門

小説家 滝口 悠生(たきぐち ゆうしょう)

- 「水平線」の成果
- 第二次世界大戦の激戦地であり、2万人を超える日本軍の戦死者が出た硫黄島は、今では自衛隊の基地が置かれ、民間人の立ち入りはできない。滝口悠生氏の「水平線」は、幻想性と日常性を巧みに綯(な)い交ぜる手法を用いて、その大戦当時と現在、そして島と内地という時空間をつなぎながら、物理的にはアクセス不可能な硫黄島に小説的想像力でアクセスしようとする大胆な試みであり、マジック・リアリズム的で濃密な小説空間を創出した、近年の日本文学における大きな収穫である。
- 略歴
- 昭和57年東京都生まれ。平成23年、「楽器」で新潮新人賞を受けデビュー。同27年、「愛と人生」で野間文芸新人賞。同28年、「死んでいない者」で芥川賞。同30年、アメリカ・アイオワ大学主催のInternational Writing Program(IWP)に参加。アイオワ滞在中の記録を「やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)」にまとめる。令和4年、写真家・文筆家の植本一子氏と「往復書簡 ひとりになること花をおくるよ」を自費出版。同年、「水平線」で織田作之助賞。近著に「ラーメンカレー」。
- 主な作品等
- 「寝相」「ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス」「茄子の輝き」「愛と人生」「高架線」「長い一日」など

歌人 渡辺 松男(わたなべ まつお)

- 歌集「牧野植物園」の成果
- 「土佐の牧野植物園へ飛ばしたり日差しとなりてわたしのからだ」「閉ぢられてある鏡にて白鳥は漆黒の夜をわたりの途中」など400首を収めた、渡辺松男氏の歌集「牧野植物園」は、生活風景から宇宙の神秘をたぐり寄せる。奔放にして特異な想像力はこの歌集で一段と研ぎ澄まされ、生命世界への先進的な視点を創り出すことになった。その文学性と精神性の高さは現代詩歌の一つの極点を示すものであり、芸術選奨の授賞対象にふさわしい。
- 略歴
- 昭和63年朝日歌壇賞受賞。平成2年「歌林の会」に入会。馬場あき子、岩田正に師事。同4年「地下に還せり」でかりん賞受賞。同7年「睫はうごく」で、歌壇賞受賞。同10年歌集「寒気氾濫」で現代歌人協会賞。同11年上毛新聞歌壇選者。同年から5年間群馬県立土屋文明記念文学館に勤務。同12年歌集「泡宇宙の蛙」でながらみ現代短歌賞受賞。同15年「歩く仏像」で寺山修司短歌賞受賞。同23年歌集「蝶」(表現を旧仮名に変更。前年に筋萎縮性側索硬化症と診断されたことによる)。同24年「蝶」で迢空賞受賞。同25年句集「隕石」刊行。「きなげつの魚」、「雨(ふ)る」、「寒気氾濫」など歌集多数。
- 主な作品等
- (歌集)「寒気氾濫」「泡宇宙の蛙」「歩く仏像」「けやき少年」「〈空き部屋〉」「自転車の籠の豚」「蝶」「きなげつの魚」、(句集)「隕石」
美術部門

現代美術家 栗林 隆(くりばやし たかし)

(下山芸術の森発電所美術館・富山県、2020)
Photo:Rai Shizuno

(ドクメンタ フィフティーン、ドイツ・カッセル、 2022)
Photo:Takashi Kuribayashi
- 「元気炉」の成果
- 栗林隆氏の作品は常に、造形的な完成度は高くセンシティブで、徹底したリサーチと行動力に裏打ちされた思考と社会批評精神の結晶であり続けている。2022年夏にドイツで開催された「ドクメンタ フィフティーン」において、シネマキャラバンと共に発表した「元気炉四号機」は、氏が定期的にリサーチを継続してきた福島第一原発の形を模した体験型スチーム作品だ。人間のエネルギーの根源はあらゆる感情から湧き上がる元気を由来と考え、原発のエネルギーと重ね合わせ、誰もが裸で体感できる作品にした。本作は、展覧会全体に向けられたネガティブな騒ぎの渦中でも、堂々と「ドクメンタ フィフティーン」の精神を象徴するオアシスであり続け、世界の美術愛好家らに歓迎された。
- 略歴
- 昭和43年長崎県出身。武蔵野美術大学卒業後渡独、デュッセルドルフ・クンストアカデミー修了(マイスターシューラー取得)。「境界」をテーマに数々の大掛かりなインスタレーション作品を制作。実際の空間や概念の反転を多く試みる。「ネイチャー・センス展」、札幌国際芸術祭、ジャポニスム2018「Enfance/こども時代」展、瀬戸内国際芸術祭等国内外のプロジェクト等に多数参加。十和田市現代美術館に「ザンプランド」、東京ミッドタウン八重洲に「Mountain range」が恒久展示されている。令和2年より「元気炉」の制作を開始。同4年、「ドクメンタ フィフティーン」に参加。武蔵野美術大学客員教授。インドネシア・ジョグジャカルタ在住。
- 主な作品等
- 「ザンプランド」「Wald aus Wald」「Trees」「Vortex 2015」「Entrances」「伊吹の樹2019」「元気炉」

書家 沢村 澄子(さわむら すみこ)

180×92×1.2cm 13枚
「宮沢賢治―沢村澄子 現象的書展」
2022/7/2-10/10(賢治イーハトーブ館)
- 「宮沢賢治(みやざわけんじ)ー沢村澄子 現象的書展」の成果
- 沢村澄子氏は、書の流派に所属することなく、個展を中心として自己の表現を提示し続けている書家である。その作品は、自分にとって切実な言葉をいかに書くかという、言葉と書のせめぎあいの場に成立している。造形性と運動性を交差させ言葉を書きつける表現は、この現代という時代に共鳴しあうステージに到達している。室内空間を出て、展示フィールドを屋外へと広げるなど、その表現の更なる拡張を続けている。切実な思いを吐露する作品群は、後進へも大きな影響を与えることと思う。
- 略歴
- 昭和37年大阪府生まれ。新潟大学教育学部特設書道科在学中から個展での作品発表を始め、これまでに100回を超える。「ことばの庭1」(白石かずこ、翠川敬基と)、「特別展 書 秋山庄太郎+沢村澄子」(秋山庄太郎と)など、他ジャンルとも多数コラボレーション。書を野外に持ち出すなど数々のインスタレーションを試み、平成31年「沢村澄子展‐銀河鉄道の夜」により同年第29回宮沢賢治賞奨励賞を受賞。岩手県立美術館、青森県立美術館、もうひとつの美術館などにてワークショップ多数。
- 主な作品等
- 「Reading Flash 2007 動物哀歌」「書くというヒミツ」「沢村澄子展 -happened-」「沢村澄子展 時の花」「宮沢賢治―沢村澄子 現象的書展」、柳嶋妙見山法性寺の襖28本に「いろは歌」「法華経」「折伏逆化」など
放送部門

脚本家 藤本 有紀(ふじもと ゆき)

- 「カムカムエブリバディ」の成果
- 藤本有紀氏は、これまでも日本の文化や歴史の魅力を豊かに伝えるドラマを多く手掛けてきた。連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」は、1925年から2025年までの100年を母娘孫の三代の主人公の物語で紡(つむ)ぎだし、個人史を日本の物語へと昇華させた大胆な作品である。日々の暮らしと日本の歴史の繋(つな)がり、海外文化や国際社会への眼差し、メディアの変遷史などを重層的に描きだす、その確かな描写と物語の構築を評価したい。
- 略歴
- 漫才・落語・コント・コメディの台本、劇団「カクスコ」作品など、舞台脚本でキャリアをスタート。その後、テレビドラマ脚本を手がけ、平成24年には大河ドラマ「平清盛」を執筆。同28年に木曜時代劇「ちかえもん」で第34回向田邦子賞受賞。令和3年度後期の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で第111回ザテレビジョンドラマアカデミー賞脚本賞、第48回放送文化基金賞脚本賞、東京ドラマアウォード2022脚本賞受賞。
- 主な作品等
- (テレビドラマ)「二千年の恋」「ラブレボリューション」「天才柳沢教授の生活」「ギャルサー」「花より男子」「名探偵赤富士鷹」「ちりとてちん」「咲くやこの花」「平清盛」「夫婦善哉」「ちかえもん」「漱石悶々」「みをつくし料理帖」「浮世の画家」「雪国―SNOW COUNTRY―」「カムカムエヴリバディ」ほか、(映画)「居眠り磐音」、(舞台)「パ・ラパパンパン」など
大衆芸能部門

浪曲師 二代目 京山 幸枝若(きょうやま こうしわか)


- 「天保水滸伝(てんぽうすいこでん)・笹川(ささがわ)の花会(はながい)」ほかの成果
- 師匠で実父の初代京山幸枝若の芸を継承し、「侠客伝」や「名人物語」などのお家芸に磨きをかけて新たな生命を吹き込んだ。とりわけ上方浪曲のホームグラウンド「一心寺門前浪曲寄席」のトリで演じた「天保水滸伝・笹川の花会」と「寛永三馬術・曲垣と度々平」は、愉快、痛快、弾むような名調子で、古き良き浪曲の魅力を令和の観客に存分に伝えた。体調を崩して精彩を欠く時期もあったが、60代後半からの充実ぶりは目覚ましく、今正に「第二の円熟期」を迎えている。
- 略歴
- 昭和29年兵庫県姫路生まれ。同46年に実父先代京山幸枝若に17歳で入門し京山福太郎を名乗る。平成16年二代目京山幸枝若を襲名。「会津の小鉄」、「左甚五郎」など持ちネタは無数。硬軟両面に冴えを見せる。浅草木馬亭において「京山幸枝若独演会」を年2回開催。この独演会で令和3年文化庁芸術祭大衆芸能部門で大賞を受賞。後進の指導に最も熱心な一人である。その理由は、「芸は盗むものという考えが昔は強かった。今その方針でやっていたら、浪曲の衰退を食い止めることは出来ず、時間が足りない」。
- 主な作品等
- 「会津の小鉄」「河内十人斬」「左甚五郎もの」「孝子万兵衛」「浪曲河内音頭」他

ミュージシャン 鈴木 慶一(すずき けいいち)


- 「It's the moooonriders」ほかの成果
- 現存する日本最古のロック・バンド、ムーンライダーズの中心メンバーとして、高橋幸宏氏と組んだTHE BEATNIKSやKERAと組んだNo Lie-Senseなど多彩な音楽ユニットの一員として、プロデューサー/ソングライターとして、更にはCM音楽、映画音楽、ゲーム音楽のクリエイターとして、幅広い分野での活動が内外で高く評価される鈴木慶一氏。1970年頃にプロ音楽家として歩み始めてから半世紀を経た今、時代時代の最先端の感触をいち早くシーンへもたらし続ける彼の功績を改めて評価したい。
- 略歴
- 昭和26年、東京都生まれ。昭和45年頃より音楽活動をスタート。同50年にムーンライダーズを結成し、翌同51年にアルバム「火の玉ボーイ」でデビュー。バンド活動の傍らCM、映画音楽なども手がけ、北野武監督の「座頭市」、「アウトレイジビヨンド〜最終章〜」で日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞。ムーンライダーズは今年、活動48年目を迎えた。
- 主な作品等
- (映画音楽)「東京ゴッドファーザーズ」、「座頭市」、「アウトレイジ」、(CD)「Happenings Nine Months Time Ago in June」など
芸術振興部門

舞台芸術プロデューサー 唐津 絵理(からつ えり)

ポストトークより
©鈴木穣蔵 提供:いわき芸術文化交流館アリオス

©matron2022 提供:Dance Base Yokohama
- 「愛知県芸術劇場×Dance Base Yokohama パフォーミングアーツ・セレクション2022」の成果
- 唐津絵理氏は、公共劇場でプロデューサーとして活動を行い、さらに令和2年に民間支援による新しいダンスハウス「Dance Base Yokohama」の立ち上げに参画、これらの連携の成果として令和4年は「愛知県芸術劇場×Dance Base Yokohama パフォーミングアーツ・セレクション2022」の全国ツアーを行い、ダンスの多様性を示し高く評価された。氏は、アーティストの自立的な活動を支援し、可能性を引き出すために、安全安心な制作環境を整えようと活動を始めた。また創客の視点から、舞台芸術の批評眼を持った新たな観客を生み出すことにも力を入れてきた。これらの活動は芸術振興の意味や方法を改めて問い直す契機ともなった。ダンスに止まらない芸術の創造と振興・支援施策のあり方両面に影響を与える重要な取り組みを牽引してきた存在である。
- 略歴
- 熊本県出身。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修了。日本初の舞踊学芸員として愛知芸術文化センター勤務。現在は愛知県芸術劇場エグゼクティブプロデューサー、Dance Base Yokohama (DaBY)アーティスティックディレクター。平成22年〜同28年あいちトリエンナーレキュレーター、文化庁文化審議会文化政策部会委員、セガサミー文化芸術財団理事等歴任。健全な創造環境整備のための実験や提言を行う。第一回アサヒビール芸術賞、令和2年グッドデザイン賞受賞。著書「身体の知性」。
- 主な作品等
- (プロデュース)ダンスの系譜学(酒井はな×岡田利規、安藤洋子、中村恩恵)、鈴木竜トリプルビル、島地保武×環ROY「ありか」、Co. 山田うん「いきのね」、平山素子×加藤訓子「DOPE」、H・アール・カオス「カルミナ・ブラーナ」、ダンスオぺラ、ダンスコンサート
評論等部門

東京都江戸東京博物館 都市歴史研究室長 岡塚 章子(おかつか あきこ)

- 「帝国の写真師 小川一眞(おがわ かずまさ)」の成果
- 小川一眞は日本近代写真の大立者と言ってよい。千円札に使われた夏目漱石の肖像がその写真館で撮影されたように、米国仕込みの腕を持つ営業写真師だったが、のみならず、国家的な文化財調査や明治天皇の葬儀の撮影を担い、先駆的な構想と幅広い人脈によって多様な印刷・出版事業を展開した。岡塚章子氏は美術館学芸員として小川と出会い、30年余の堅実な調査を通じ、業績の全容を解明した。重要な基礎文献となることは確実で、表現論だけでは捉えがたい写真史の本質を示唆する業績でもある。
- 略歴
- 昭和38年生まれ。筑波大学人間総合科学研究科博士課程修了(博士・芸術学)。平成2年から学芸員として東京都写真美術館、東京都庭園美術館、東京都江戸東京博物館に勤務。「日本近代写真の成立と展開」、「写された国宝―日本における文化財写真の系譜」、「庭園植物記」、「建築の記憶―写真と建築の近現代」、「140年前の江戸城を撮った男 横山松三郎」、「浮世絵から写真へ―視覚の文明開化―」等の展覧会を企画・担当。近代における写真や印刷などの視覚メディアと美術や社会との関係を研究。同17年美連協図録奨励賞、同24年日本写真協会賞学芸賞、同27年美連協カタログ論文賞優秀論文賞を受賞。
- 主な作品等
- (共著)「博物館資料論」「“オリジナル”の行方―文化財を伝えるために」「通天楼日記―横山松三郎と明治初期の写真・洋画・印刷」「国宝ロストワールド」

淑徳大学教授 中野 正昭(なかの まさあき)

- 「ローシー・オペラと浅草オペラ」の成果
- 日本近代のオペラ史を音楽から論じようとすると、演目の軽重や歌唱・演奏の水準ばかりが問題とされがちだ。大正よりも昭和にレベルが上がるというような発展史観ともつながりやすい。しかし、オペラは飽くまで音楽と演劇と舞踊との交点で営まれる興行であり、その時代の観客の感性や欲求と触れ合ってこそ。優れた演劇史家、中野正昭氏は、そこを確実に捕まえている。大正期の東京ならではの唯一無二の文化現象としてのオペラの姿を、新資料も駆使し、特に上演台本を丹念に読み解いて、見事に描き出した。本書には大正の独自の輝きが宿っている。視点と内容の両面で歴史を塗り替える傑出した業績だ。
- 略歴
- 昭和46年福岡県生まれ。明治大学大学院文学研究科演劇学専攻博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。早稲田大学坪内博士記念演劇博物館助手として企画展「古川ロッパとレヴュー時代」「演劇人坪内逍遙」「坂本万七 新劇写真」他を担当。同博物館招聘研究員や明治大学、立教大学、神田外語大学等の兼任講師を経て、令和4年より現職。専門は日本近現代演劇、演劇世相史、大衆文化論。舞台芸術と舞台娯楽の往復や、それらの混淆、中間ジャンルを主に研究している。
- 主な作品等
- (単著)「ムーラン・ルージュ新宿座――軽演劇の昭和小史」、(編共著)「ステージ・ショウの時代」「浅草オペラ 舞台芸術と娯楽の近代」、(共著)「井上ひさしの演劇」「日本表象の地政学――海洋・原爆・冷戦・ポップカルチャー」「戦後ミュージカルの展開」「演劇とメディアの20世紀」「A History of Japanese Theatre」ほか
メディア芸術部門

アニメーション監督 新海 誠(しんかい まこと)

- 映画「すずめの戸締まり」の成果
- 「すずめの戸締まり」は、公開されるや否や大ヒットを記録し、正に国民的映画として広く人々の支持を得た。東日本大震災を扱ったこの作品は、「君の名は。」「天気の子」に続き、新海誠氏の災害を扱った3部作とも呼ばれ、そのスケールの大きさとダイナミックな物語展開により我々を圧倒する。宮崎、愛媛、神戸、東京、そして東北へと続くロードムービーは、日本の地方の美しさと過ぎ去った時代への慈しみにあふれており、大切な人を取り戻そうとする一人の女子高生の抵抗が、より大自然の大きさと無情さを感じさせる。日本の神話や伝承に基づく世界観を持ち、アニメーションによって「壮大な叙事詩」を描く氏のスタイルは唯一無二のものである。
- 略歴
- 昭和48年長野県生まれ。平成14年、個人制作の短編作品「ほしのこえ」で商業デビュー。その後「雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」「星を追う子ども」「言の葉の庭」を発表。同28年公開の「君の名は。」は社会現象を巻き起こす大ヒットとなり、令和元年公開の「天気の子」も同年の国内興行収入1位を記録した。同4年11月、最新作「すずめの戸締まり」が公開された。
- 主な作品等
- 「ほしのこえ」「雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」「星を追う子ども」「言の葉の庭」「君の名は。」「天気の子」「すずめの戸締まり」
芸術選奨文部科学大臣新人賞
演劇部門

俳優 枝元 萌(えだもと もえ)


- 「あつい胸さわぎ」ほかの成果
- 「あつい胸さわぎ」は、芸大生になった娘とシングルマザーの母の前に二人の男性が現れ、それぞれ胸の高鳴りを覚える中、娘に病気が見つかって、という母娘の物語。枝元萌氏は一人の女性として娘を思う母の愛情を情感豊かに表現。関西弁でつづられた台詞の軽妙なやり取りの中に丁寧に気持ちを落とし込んだ。舞台を和ませる雰囲気。氏自身のキャラクターも魅力的で、物語の貴重なバイプレーヤーとして活躍が期待できる存在である。
- 略歴
- 昭和51年滋賀県出身。京都文化短期大学経営学科卒業後、酒造会社の社員として働いていたが、テレビで加藤健一事務所の舞台中継を見て感銘を受け、養成所に入り、その仲間たちとユニット「ハイリンド」を結成。その後、映像と並行しながら、こまつ座や新国立劇場など多数出演。令和2年、横山拓也作・演出の、iakuの公演に初参加、「あつい胸さわぎ」の初演で、第27回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞、同4年にその再演と、こまつ座の舞台「貧乏物語」に対し、第57回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。
- 主な作品等
- 「あつい胸さわぎ」「貧乏物語」「私はだれでしょう」「目頭を押さえた」「私たちは何も知らない」「北齋漫畫」NHK連続テレビ小説「わろてんか」等
映画部門

映画監督 早川 千絵(はやかわ ちえ)


- 「PLAN 75」の成果
- 「自助」「自己責任」といった言葉がはびこり、人間を「生産性」の観点から評価して弱者を切り捨てる社会を、早川千絵氏は長編映画監督第1作の「PLAN 75」で静かに、しかし鋭く批判した。75歳になると安楽死を選べる制度「プラン75」が導入された近未来の日本を舞台に、制度に関わる人々の日常を丹念に描く。セリフで多くを語らず映像で情感を繊細に表現し、社会問題を娯楽作品のなかに織り込んだ力量は、今後の活躍を大いに期待させる。
- 略歴
- 昭和51年東京都生まれ。短編「ナイアガラ」が平成26年カンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門入選、ぴあフィルムフェスティバルグランプリなど多数受賞。同30年、是枝裕和監督が総合監修を務めたオムニバス映画「十年 Ten Years Japan」の一編「PLAN 75」の監督・脚本を手がける。令和4年、その短編から物語を再構築した長編第一作「PLAN 75」はカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品され、新人監督に贈られるカメラドールの特別表彰を受けた。
- 主な作品等
- 「PLAN 75」「十年 Ten Years Japan」
音楽部門

指揮者 園田 隆一郎(そのだ りゅういちろう)


- 「泥棒かささぎ」ほかの成果
- 園田隆一郎氏は、声楽から音楽全体を構築していくわざを熟知した、イタリア・オペラが本格的に指揮できる数少ない日本の指揮者である。令和4年は大阪・フェスティバルホールにおけるロッシーニ「泥棒かささぎ」及びびわ湖ホールにおけるヴェルディ「ファルスタッフ」という二つの大作を成功に導き、同時に藤沢市民オペラのヴェルディ「ナブッコ」においても見事な演奏を見せた。イタリア・オペラの伝道師としての今後のますますの活躍が期待される。
- 略歴
- 昭和51年東京都生まれ。東京藝術大学指揮科、同大学院修了。平成14年より渡伊、シエナのキジアーナ音楽院とローマ歌劇場で指揮者ジャンルイジ・ジェルメッティ氏に師事。同18年キジアーナ夏季音楽週間「トスカ」を指揮してデビュー、その後ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル、ボローニャ歌劇場、フランダース・オペラ、藤原歌劇団、びわ湖ホール、日生劇場など国内外のオペラ、オーケストラへの出演を重ねている。五島記念文化賞オペラ新人賞、齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞。藤沢市民オペラ芸術監督、パシフィックフィルハーモニア東京 指揮者。
- 主な作品等
- オペラ「アルジェのイタリア女」「オテッロ」「セビリアの理髪師」「ラ・チェネレントラ」「泥棒かささぎ」「アルミーダ」「湖上の美人」「セミラーミデ」「ランスへの旅」、モーツァルトのダ・ポンテ三部作、「ナブッコ」「イル・トロヴァトーレ」「椿姫」「ファルスタッフ」他
舞踊部門

舞踏家 田村 一行(たむら いっこう)

撮影:熊谷直子

撮影:熊谷直子
- 「舞踏 天狗藝術論」の成果
- 田村一行氏は、大駱駝艦(だいらくだかん)で麿赤兒氏に師事し舞踏家として活動を始めた。振付・演出に早くから挑戦するほか、他ジャンルとの共演、民俗芸能の採集、子供ワークショップなど舞踏の可能性を探求し続けている。令和4年、振付・演出・美術・出演した「舞踏天狗藝術論」では、これまでの成果を活(い)かした豊かな世界観を、緻密にして大胆な構想と振付によって創り上げた。舞踏だけでなく舞踊界を牽(けん)引する一人となることが期待される。
- 略歴
- 昭和51年東京都生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒。平成10年大駱駝艦入艦、麿赤兒に師事。以後現在まで全ての大駱駝艦の活動に参加。同14年「雑踏のリベルタン」を発表。同作品により第34回舞踊批評家協会新人賞受賞。同20年ジョセフ・ナジ振付・演出、日仏共同制作公演「遊*ASOBU」に出演。アヴィニョン演劇祭オープニング他、5ヵ国15都市のツアーに参加。同20年文化庁新進芸術家海外留学制度によりフランス・オルレアンへ留学。同23年より(一財)地域創造「公共ホール現代ダンス活性化事業」登録アーティストとして、地域の文化や風土を題材とした作品の創作にも意欲的に挑み、独自の作品を発表し続けている。
- 主な作品等
- 「雑踏のリベルタン」「血」「オママゴト」「又」「おじょう藤九郎さま」「みだらな蛙」「舞踏 天狗藝術論」「宮古仄聞記」「水に浮いたひょうたん」「穴師樹影譚」「幽玄の論理」「但馬夜話蒐集録」
文学部門

小説家 九段 理江(くだん りえ)

- 「Schoolgirl」の成果
- 九段理江氏は「Schoolgirl」で、太宰治の「女生徒」のリメイクを偽装しながら、今もなお踏襲され続けている母と娘の対立という古典的なテーマの換骨奪胎を図った。母と娘の対立は、迷信や無知との戦いでもあり、影響の不安をめぐる感情的軋轢(あつれき)でもあるので、父と息子における思想的対立のように単純には解決できないが、世代間ギャップの紋切り型への批評や微笑を誘う皮肉を織り交ぜ、AIまで登場させ、このテーマの新機軸を打ち出した。
- 略歴
- 平成2年埼玉県生まれ。大学研究室助手、専門学校非常勤講師等を経て、令和3年に「悪い音楽」で第126回文學界新人賞を受賞しデビュー。「Schoolgirl」は第166回芥川賞の候補作に選出される。また、上記2作が収録された「Schoolgirl」は第35回三島由紀夫賞候補となった。
- 主な作品等
- 「Schoolgirl」
美術部門

美術家 中﨑 透(なかざき とおる)

photo:Ken Kato

photo:Ken Kato
- 個展「中﨑透 フィクション・トラベラー」ほかの成果
- 中﨑透氏は絵画に始まり、自作の看板や陶芸、ことば、映像から既製品の転用に至るまで極めて多角的な視点を作品に落とし込む。契約行為と共に看板を制作展示した当初から、アートの社会性、人との繋(つな)がり、ものが生まれ消え再生する過程を拾い続ける。Nadegata Instant Partyの一員として活動する一方で、令和4年は個人での複数の発表が際立った。地元水戸芸術館の個展では、地域住民から集めたオーラルヒストリーを看板やネオン、過去の日常の断片と共に展示、それらの存在理由と価値の変容を提示した。一地域の個人的物語が、地方都市の画一的既視感を呼び覚ます。彼の捉えどころのない多様性は何より現代美術の特質を表している。
- 略歴
- 昭和51年茨城県生まれ。平成19年武蔵野美術大学大学院造形研究科博士後期課程満期単位取得退学。現在、茨城県水戸市を拠点に活動。看板をモチーフとした作品をはじめ、パフォーマンス、映像、インスタレーションなど、形式を特定せず制作を展開している。同18年末より「Nadegata Instant Party」を結成し、ユニットとしても活動。同19年末より「遊戯室(中﨑透+遠藤水城)」を設立(〜令和3年)し、運営に携わる。平成23年よりプロジェクトFUKUSHIMA!に参加、主に美術部門のディレクションを担当。主な展覧会として「そらいろユートピア」、「札幌国際芸術祭(SIAF)2017」、「ロマンティック・プログレス」、「フィクション・トラベラー」など。
- 主な作品等
- 「看板屋なかざき」「シュプールを追いかけて」「Like a Rolling Riceball」「Green Tearoom Ballade」「Clothing Fills in the Sky」「Connection Collection」
放送部門

ドラマプロデューサー 佐野 亜裕美(さの あゆみ)

- 「エルピス―希望、あるいは災い―」ほかの成果
- 佐野亜裕美氏はテレビプロデューサーとして、「カルテット」、「大豆田とわ子と三人の元夫」、「17才の帝国」など、既存のスタイルに囚(とら)われない新しいドラマを生み出してきた。「エルピス―希望、あるいは災い―」では脚本家・渡辺あや氏と組んで冤(えん)罪事件を取り上げ、臆することなく権力の腐敗やテレビ報道の在り方にメスを入れた。それを正義の側から一方的に告発するのではなく、心の闇や嘔(おう)吐する身体といった登場人物の弱さの克服とともに描いた点も高く評価された。
- 略歴
- 昭和57年静岡県生まれ。静岡県立富士高校卒業。東京大学教養学部卒業後、平成18年TBSテレビに入社。同23年「20年後の君へ」でプロデューサーデビューし「ウロボロス」「99.9 刑事専門弁護士」「カルテット」「この世界の片隅に」などをプロデュース。令和3年関西テレビに移籍し「大豆田とわ子と三人の元夫」「エルピス―希望、あるいは災い―」、業務委託で「17才の帝国」をプロデュース。平成30年エランドール賞プロデューサー賞、令和4年大山勝美賞を受賞。
- 主な作品等
- 「潜入探偵トカゲ」「刑事のまなざし」「ウロボロス―この愛こそ、正義―」「おかしの家」「99.9刑事専門弁護士」「カルテット」「この世界の片隅に」「大豆田とわ子と三人の元夫」「17才の帝国」「エルピス―希望、あるいは災い―」
大衆芸能部門

コントグループ 東京03(とうきょうぜろさん) 飯塚 悟志、角田 晃広、豊本 明長


- 「ヤな覚悟」ほかの成果
- 洗練された脚本と卓越した演技力により、日常に潜むちょっとした違和感を笑いに変えるコントは、演芸と演劇の区別がつかない独自の境地を切り開き、エンターテインメントとしてのコントの存在価値を確かなものにした。令和4年、9都市34公演の全国ツアー「ヤな覚悟」で圧巻の観客動員数を誇るなど、ライブ中心の活動形態を完成させた功績も大きい。絶妙な人間心理を表現する三者三様の存在感は、演者が人生経験を積むほどに魅力を増しており、今後更にコントの可能性を高めてくれることを期待したい。
- 略歴
- 平成7年にスクールJCAで出会った飯塚悟志、豊本明長でアルファルファを結成。同15年に角田晃広が加わり東京03としての活動を開始。同21年のキングオブコントで優勝。同16年から単独公演を毎年開催しており、公演チケットは即完売の人気を誇る。現在ではコントの演技が評価され、ドラマや映画に出演するなど活動の幅を広げている。
- 主な作品等
- 「第22回 東京03単独公演「ヤな塩梅」」「第23回 東京03単独公演「ヤな因果」」「第24回 東京03単独公演「ヤな覚悟」」等
芸術振興部門

CINEMA Chupki TABATA 代表 平塚 千穂子(ひらつか ちほこ)


- 映画「こころの通訳者たち」ほかの成果
- 「バリアフリー」という言葉をあえて使わず、全ての人のための映画館「ユニバーサルシアター」と銘打った「CINEMA Chupki TABATA」を平成28年に立ち上げ、そして令和4年、映画「こころの通訳者たち」を制作。そこでは、舞台手話通訳者、音声ガイド制作者、そして障害を持つ当事者らの奮闘が描かれる。その根底にあるのは、障害の有無に関係なく一緒に芸術を楽しむという姿勢である。地域へも波及するその活動が更に発展されることを期待し、文部科学大臣新人賞を贈る。
- 略歴
- 昭和47年東京都生まれ。早稲田大学教育学部教育学科卒業後、カフェや映画館に勤務。平成13年4月ボランティア団体City Lights設立。以後、視覚障害者の映画鑑賞環境づくりに従事。同15年第37回NHK障害福祉賞優秀賞受賞。同28年9月ユニバーサルシアターCINEMA Chupki TABATA設立。第24回ヘレンケラー・サリバン賞。同29年日本映画ペンクラブ賞特別奨励賞、同30年バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者内閣府特命担当大臣表彰優良賞、令和4年JFA一般財団法人日本ファッション協会シネマ夢倶楽部賞、第36回山路ふみ子福祉賞受賞。
- 主な作品等
- (書籍)「夢のユニバーサルシアター」、(ドキュメンタリー映画)「こころの通訳者たち What a Wonderful World」製作(プロデューサー)
評論等部門
法政大学助教 佐藤 未央子(さとう みおこ)

/装幀 真田幸治
- 「谷崎潤一郎(たにざきじゅんいちろう)と映画の存在論」の成果
- 谷崎と映画の関係をめぐる研究はこれまでにも多数あったが、本書はそれら先行研究をしっかり踏まえた上で資料を丁寧に精査しつつ、谷崎にとって映画とは何だったのかという根本的な問いを掘り下げ、実にスリリングな考察となっている。何より、谷崎の文章に立ち返りたい思いを読者に掻(か)き立てる巧みな筆致が秀逸である。谷崎の「視座」に立たんとする筆者の目論見(もくろみ)には才知が溢(あふ)れ、分析力のみならず批評眼も鋭い。更なる成果が続くことを予感させる。
- 略歴
- 昭和63年宮城県生まれ。平成29年、同志社大学大学院文学研究科国文学専攻博士後期課程修了。現在、法政大学文学部日本文学科助教、早稲田大学総合人文科学研究センター招聘研究員。専門は日本近代文学、映画学。谷崎潤一郎を中心に、作家による映画批評・映画小説の読解や、小説の映画化、俳優に関する研究を行う。
- 主な作品等
- 「台湾愛国婦人 復刻版 別冊 解題・総目次・執筆者索引」(共著)
メディア芸術部門

漫画家 野田 サトル(のだ さとる)


- 「ゴールデンカムイ」の成果
- 野田サトル氏の「ゴールデンカムイ」は令和4年大好評の末8年に及ぶ連載を完結した。この作品は明治末期の北海道と樺太を舞台に、国・民族・個人・様々なレイヤーが複雑に重なる、スケールとスピードを兼ね備えた稀(け)有な作品であった。特に敵味方が入り乱れる多彩なキャラクターと物語の要所に散りばめられる異文化の描写は多くの読者を魅了した。今後とも様々な歴史からの新たな物語の生成を期待して文部科学大臣新人賞としたい。
- 略歴
- 北海道生まれ。平成15年に別冊ヤングマガジンに掲載された読み切り「恭子さんの凶という今日」でデビュー。同18年には「ゴーリーは前しか向かない」で、第54回ちばてつや賞ヤング部門大賞を受賞。同23年から同24年にかけて週刊ヤングジャンプで「スピナマラダ!」を連載。同26年より同誌にて連載され令和4年に完結した「ゴールデンカムイ」は「コミックナタリー大賞 2015」第2位、「このマンガがすごい!2016オトコ編」第2位、「マンガ大賞 2016」第1位、「第2回北海道ゆかりの本大賞コミック部門」大賞、「第22回手塚治虫文化賞」マンガ大賞、「第24回文化庁メディア芸術祭マンガ部門」ソーシャル・インパクト賞、第51回日本漫画家協会大賞受賞。大英博物館マンガ展キービジュアル選出。
- 主な作品等
- 「スピナマラダ!」